與田靖子（よだやすこ）さん（2014年8月取材）

株式会社西広ソリューションプランニング局プランニング部部長

女性が無理なく仕事を続けられる道を拓きたい

　福岡の大手広告会社・西広で、初の女性部長に就任した與田さん。柔らかくあたたかい雰囲気で、これまでの道のりや思いを率直に語ってくれた。

決まった商品のない広告の世界にひかれて

　柳川市で生まれ、福岡市の大学を卒業後、西広に就職。「PRや営業に興味があったんです。数ある営業の中でも、すでにある商品を売るのではなく、お客様の要望に合わせてカスタマイズする広告はやりがいがありそうだと思い、志望しました」。同社で大卒女性の総合職採用が始まって３年目、同期５人のうち、女性は２人だった。
　最初の配属先は、希望どおりの営業。「いいお客様に恵まれて、仕事がとても面白かったですね。深く謝罪する事態に陥ったこともありますけど…」と屈託のない笑顔で振り返る。２年後、マーケティングの部署へ異動。広告にとどまらず、まちづくりや商品開発などにも取り組みながら、20年がすぎた。與田さんの担当分野は、主に流通と金融、エネルギー。知識を深めるため、独学でファイナンシャルプランナーの資格も取得した。「会社のトップの方にお会いし、話を聞かせていただき、こちらのアイデアを提案させていただけることがこの仕事の醍醐味だと思います。組織をマネジメントする方は、人と違う視点やコミュニケーション法をお持ちで、勉強になります」と言う。
　「女性だということで、いやな思いをされたことは？」という問いには、しばらく考えてから「そういえば一度だけ『女性だから、わからない』という言い方をされたことがあります。でも、それは私が女性だからではなく、単に勉強不足だったから」と冷静な答が返ってきた。

周囲の協力のおかげで“小１の壁”を突破

　29歳で結婚、39歳で出産。産後４か月から、夜10時まで延長保育のある園に子どもを預け、仕事と育児を両立した。そして2014年の４月、息子は小学校に入学。学童保育は夜７時までで、その後の預け先がない。働く母親を悩ませる、いわゆる“小１の壁”に直面した。折しも同じ月、與田さんは部長に昇格。同社の創業から64年、初の女性部長の誕生だ。これを機に、働き方を見直し、思い切って「６時に帰らせてください」と、会社に頭を下げた。これまでと同じ働き方をしていたら、いろんなところにひずみが出てしまうという不安をまわりの人たちは理解し、快く受け入れてくれたという。「今の上司は自宅が近く、私の帰りが遅いと、ご家族が息子を預かってくださることも。本当にありがたい」としみじみ語る。

自分の状況や気持ちをしっかり伝える

　現在、12人が所属するプランニング部の部長を務める。部長になったことで、社外のネットワークが格段に広がった。「女性管理職の会に声をかけてもらったり、人を紹介されたり。皆さん、それぞれに素晴らしいところがあって、見習いたいロールモデルがいっぱい。人との出会いって、やっぱりいいですね」と微笑む。
　社内では結婚しても働き続ける女性が増え、子育て中の女性もいる。「会社も私もまだ模索している段階で、柔軟に対応してくれる会社に感謝しています。これからは女性の管理職も増えていくでしょう。そのとき、無理しすぎて倒れてしまっては困る。だから私は、女性が無理なく仕事を続け、かつ自己達成できるような道を拓いていきたいんです。そのために、時にはできないことは「できない」と言おうと決めました。私が言わなければ、あとが続かないと思うから。そしてもうひとつ、自分ができる仕事量を完全に超えてしまったら、素直に周囲の人に助けてもらうようにしました。その分、自分にできることはできるだけ請け負うようにしています」と、いい人間関係を築きながら仕事に向かっている。
　さらに「仕事では新しい広告の可能性を見出していきたいし、マネジメントも学びたい。プライベートでは、数年前に大学でマーケティングの講義をしたのがとても面白かったので、学生さんに伝えるような活動をしたい」と将来への思いもあふれている。自分と家族、まわりの人、そして後に続く女性のことを考えつつ、與田さんはこれからもしなやかに自らの道を歩んでいく。
（2014年8月取材）

私の大切な時間

　子どもの成長が楽しくて仕方がないという與田さん。「５歳のとき、保育園で習ったチキンライスをうちで作ってくれたんです（写真）。ぼくが作るよと言って、ゴーグルをして玉ねぎを刻んで。本当にうれしかったですね」と一段と優しい表情で語ってくれた。
　また、ひとりで星を見るのも大好きな時間だ。「小さい頃、実家の庭にシートをひいてゴロンと寝ころぶと、満天の星が見えていたんです。独身時代、仕事の帰り道に夜空に見とれすぎて、田んぼに落ちたことも…。今でも空を見上げて、星を結んで星座を探したりしますよ」。