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坂本 香魚美(さかもとあゆみ)さん (2013年7月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

フォトスタジオ ビタミン 代表

撮影を通じて、シニアを元気にしたい

 「60歳未満お断り!」、そんな一風変わった条件の撮影メニュー「ライフフォト」が注目を集めているフォトスタジオビタミン。店に入ると、代表の坂本香魚美さんが、初対面とは思えない気さくな笑顔で迎えてくれた。壁には、一般的な記念写真に加えて、シニアの方々の素敵な写真がズラリ。誰もが生き生きとした表情で、見ているこちらまで自然と笑顔になる。「パワースポットと言われるんですよ」。坂本さんは愛おしそうに写真を眺めながら、話を聞かせてくれた。

写真家としての想いと経験からの学びが重なって

 大学を卒業後、実家の写真館でキャリアをスタートした坂本さん。「絶対にカメラマンになる、というほど強い思いはなく、ごく自然な流れでした。毎日を楽しく過ごしたいと気楽に考えていましたね」。そんな自分にふと疑問を抱いたのは、30歳のとき。友人から投げかけられた「そのままでいいの?」というひと言がきっかけだった。「若いからと甘やかされ、親の七光りでここまでやってこられたのだと気付いたんです。『これではいかん』とハッとしました」。
 経営について学び始め、ある成功事例に深く感銘を受けた。それは、徳島県上勝町の「葉っぱビジネス」。高齢化が進む町で、シニアが活躍できるビジネスとして、町の葉っぱや花などを販売。年商は2億6000万円にものぼる。「パソコンを駆使して全国から情報を集め、年収1000万円を稼ぐおばあちゃんもいるんですよ。舞台があれば、シニアが生き生きと輝ける。革命的なアイデアに感動しました」。
 この事例が心に響いた背景には、自身の苦い経験があった。「小さな集合写真の一部を、遺影用に大きくしてほしいと頼まれることが多かったんです。引きのばすと、ぼんやりした粗い写真にしか仕上がらなくて、とても残念に感じていました」。だから、一歩踏み出し、勇み足となったこともある。孫の成人式の家族撮影。同行してきたおばあちゃんに「せっかくだから、ひとりでも撮りませんか?」と声をかけた。家族は乗り気だったけれど、当の本人は気分を害し、かたくなに拒否。「遺影なんて、縁起が悪いと思われたんでしょうね。とてもいい表情をされていたから、撮りたかったのですが…。ショックでした」。

60歳以上を対象にした撮影をスタート

 そんな折、知り合いの写真館から声がかかり、坂本さんは32歳で同館の代表に。リニューアルオープンにあたって、温めていた構想を打ち出した。入学入園、七五三、成人式などの一般的な記念撮影に加えて、60歳以上を対象にした撮影「ライフフォト」を始めたのだ。年齢を重ね、その人が培ってきた経験や人生を反映した姿を撮影する。遺影ではなく、生きている証として。
 一人ひとりの最高の笑顔を引き出すために、全力で相手に向き合うのが坂本さんのモットー。どんな人にも自然体で接し、親しみを込めて下の名前で呼ぶ。ポーズは、まず自分が見本を示す。はじめはためらっていた人も、坂本さんのとびきり明るい笑顔と声かけにつられて、だんだんノリノリに。さらに、少し姿勢をよくすれば若々しくなると思えば、「頑張った人にしか出せない結果があります。やってみましょう」と提案し、より高みを目指す。「みなさん、私たちが驚くほど楽しみ、喜ばれ、感動してくださるんですよ。長年連れ添った夫婦でさえ、相手のこんなにいい笑顔、見たことがないなんておっしゃって…。ご自分の魅力や輝きに気付き、元気になってもらえたら、最高にうれしいですね」と声を弾ませる。

笑顔のエネルギーでみんな幸せに

 ライフフォトを始めて5年。1年目のお客さんは24人だったが、口コミや新聞、テレビなどでどんどん評判が広がり、今年は年間250人を超える勢いだ。つい先日は105歳のおばあちゃんが撮影に訪れ、「来年も来ます」と言ってくれた。余命6か月と宣告された人の、凛とした美しい表情も印象深かった。「たったひとりの笑顔にものすごいハッピーエネルギーがあって、撮影した方が笑顔になると、まわりにも笑顔と幸せが連鎖していく。ライフフォトを通じて、シニアの方々を元気に、そして日本を元気にしたい」。きっぱり言い切る坂本さんは太陽のように明るく、頼もしく、輝いていた。

「遺影じゃなくて、イエーイです」と言いながら、ともに代表を務める明石さんと楽しげにポーズをとる坂本さん。

(2013年7月取材)

コラム

私の大切な時間

坂本さんは3年前に結婚。「自由に仕事したいから、結婚は無理と考えていた矢先、東京で夫に出会ったんです。夫はケアマネージャーなので、初対面からシニアの話題で盛り上がりました」。夫が福岡に移り住み、新生活がスタート。夫は仕事の傍ら、育児や家事を積極的にサポートしてくれるという。「夜ご飯のとき、私と夫は缶ビール、2歳の娘はコップで『カンパーイ!』とするのが幸せなひととき。娘は保育園でもみんなに『カンパーイ。プハーッ』とするって、先生に笑われちゃいました」と楽しそうに語る。

プロフィール

福岡市出身。福岡市大橋にある老舗写真館の長女。東京工芸大学を卒業後、実家の写真館に勤め、父や兄と共に働く。2008年、交友のあった福岡市長尾の「アカシ写心館」から声をかけてもらい、「フォトスタジオ ビタミン」の代表に就任し、同年同館をリニューアルオープン。2010年に結婚、翌年、女の子を出産。自身を含め6人のスタッフで、ライフフォトをはじめ、さまざまな人物撮影を手がける。

 

 

 

 


 

 

 

 

キーワード

【さ】 【働く・キャリアアップ】 【研究・専門職】

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