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柴田 多惠子(しばたたえこ)さん (2012年11月13日取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

野菜人形劇グループ 「ベジタブル」 代表

旬の野菜を使った人形劇で「食」の大切さを伝えたい

 小学校の体育館に野菜の人形を持った子ども達の声が響く。「たくさん食べて、友達といっぱい遊ぼうっと!」「今日のご飯はお父さんが作ったとぞ」。人形劇の台本を作った女性は「おばちゃんはね、み~んなに健康になってほしかとよ」と、筑豊弁で語りかけ体育館を裸足で走り回る。彼女こそ、人形劇団「ベジタブル」の主宰者、柴田多恵子さんだ。

「あっ、にんじんのニイ子ちゃんだ」

 もともと本嫌いだったという柴田さん。出産後、絵本に興味を持ち、30歳で読み聞かせについて学び始めた。やがて、娘の幼稚園で読み聞かせをするように。「あがり症の私が人前で話すには?こちらに目を向けてもらうには?」そう考えるうちに、本物の野菜を使った人形劇を思いついた。ニンジンに目と鼻を付け、娘のぬいぐるみの服を着せて菜箸に刺し「にんじんのニイ子ちゃんよ」と呼び掛けたところ、子ども達から「わぁっ」と歓声が上がった。その日のお弁当の時間、ニンジン嫌いの子が「あっ、ニンジンのニイ子ちゃんだ」と嬉しそうに食べる姿を見て、「これなら野菜嫌いの子にも興味を持ってもらえる」と自信を深めた。ジャガイモのポーちゃん、大根のダイちゃんと「仲間」を増やし、物干しにシーツをかぶせて舞台を作った。44歳の時に、近所の人や義理の妹など有志10人で人形劇団「ベジタブル」を発足させた。
 翌年、ある新聞社の編集企画委員と出会い、野菜についての講演を聞いて愕然とした。「実は野菜について私は何も知らないんだ」。その頃、ちょうど夫から「野菜を作ってみようか」と言われ、夫婦で畑仕事を始めたところだった。野菜作りの大変さも、本当の美味しさも知った。こうして人形劇のテーマに「食育」を掲げることになる。

一番のやりがいは、参加者が笑顔になること

 ベジタブルの演目は18作品。小さい子ども向けには昔話などの物語やオリジナルの寸劇、大人向けには地産地消の話など、内容は対象に合わせて選んでいる。旬の野菜を使うため、季節によって「キャスト」は変わる。たとえば、夏はタマネギの皮をむいて女の子にするが、冬はカブを使う。人形は毎回、劇の前日に作り、使った野菜は講演会場に置いて帰る。「野菜は命のあるものだから、食べられなくなったら土に帰してね」と言い添えて。
 現在、ベジタブルのメンバーは25人。野菜の生産者や出演する学生など参加の形はそれぞれで、「やれる人がやれる時に」が信条だ。「18年間続けてこられたのは、無理をしなかったから。グループでの飲み会や食事会は一切やらなかった。夜、集まることをせず、昼間、人形作りをしながら、1~2時間、子育てのことや家庭のことを話すだけで、気分転換にもなるし、コミュニケーションもとれますから」と柴田さん。
 一番のやりがいは「参加者の笑顔」。講演の最初、元気がなかった子ども達が人形劇や「食育カルタ遊び」が終わる頃には笑顔になる。また、「給食が全部食べられるようになった」「野菜の人形をもらったことがきっかけで、苦手な野菜が好物になった」など嬉しいエピソードはいくつもある。「以前と比べて今の子は、確かに難しい部分がある。それでも子どもの本質は変わっていない」。

結果を急がないこと。今できることを楽しむ。

 旅館業を営む傍ら、人形劇や食育講演を続けてきた柴田さん。「旅館に予約が入っている時は活動しない。そして何よりも私が大切にしてきたのは家庭なんです」と胸を張る。だが、若い頃は夫から「家庭じゃなくて、読み聞かせが主になっとらんか?」と言われ、口げんかになることも多かった。「言いたいことはとことん言い合ってきた。やめようかと思ったこともある。でも、好きなことを続けようと思えば、努力は必要。続けたいと思うことが大事だと気づいた」。マスコミに取り上げられるようになり、人間関係につまずきを感じた時に「天狗になるなよ」とたしなめてくれたのは、夫と娘だった。「私は、家族に育てられたんです」。娘は「私も野菜を作りたい」と高校生の頃から畑仕事をするようになり、就職した今も旅館業を手伝う。定年退職した夫は、人形作りや、講演会の送迎など、柴田さんの活動を支えてくれるようになった。
 最初の10年間はボランティアでやってきた活動だが、ある時期から講演料をいただくように。「講演料をいただくことで、さらに人の役に立ちたいと身が引き締まります」。食育に携わって得たことは、旅館業にも還元された。「お客様に出す料理が旬の野菜をおいしく食べていただけるようなものに変わってきました。今は、料理をすることが楽しい。そしてお客様や夫が『おいしい』と言ってくれることが私の喜びなんです」と顔を輝かせる。
 「やりたいことがあるのなら、勉強できるときに少しずつ勉強しておくといい。結果をすぐ出そうと思わないこと。今できることを楽しみましょう。私もまだまだ修行中です」と満面の笑みを浮かべた。

                                                                                             (2012年11月13日取材)

コラム

柴田さんの交友録

 テレビの取材を受けたことがきっかけで、タレントの榊原郁恵さん一家と仲良くなった柴田さん。柴田さんの影響を受けて、榊原さんも野菜作りを始めたのだそう。「郁恵ちゃんは電話で『柴田さん、じゃがいもが出来たよ』などと報告してくれる。いつも1時間くらい長話してしまうんです」と顔をほころばせる。健康と笑顔の輪はどこまでも広がっていきそうだ。

プロフィール

 宮若市出身。日本体育大学を卒業後、7年間、高校で保健体育の非常勤講師を務める。その後、実家の旅館業を手伝いながら、1992年に野菜人形劇を始め、2年後に『ベジタブル』を発足。現在、宮若市で脇田温泉「湯原荘」を営みながら、県内各地で人形劇や食育の講演活動を行っている。2003年~日本子どもの本研究会会員・2003年~豊友会会員・2003年、福岡県アンビシャス運動第1回表彰団体・2004年「地域に根ざした食育コンクール2004」優良賞受賞。

 

 

 

 


 

 

 

 

キーワード

【さ】 【農林水産】 【子育て支援】

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