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中村 佳奈(なかむらかな)さん  (2012年11月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

小倉リハビリテーション学院副学院長、作業療法士 (取材時:NPO法人北九州小規模連 「一丁目の元気」担当理事)

「みんなにやさしい街づくり」に貢献したい

 小倉駅からほど近い商店街の一角にある「一丁目の元気」。木の温もりに包まれた店内には、さまざまな雑貨や食品が並び、カフェスペースでおしゃべりに熱中する女性たちの姿があった。ここは障害のある人たちが手づくりした商品を販売する、北九州唯一のアンテナショップ。ものを通じて障害者と地域がつながり、障害者が働く場にもなっている。NPO法人の理事として、4年前に同店を立ち上げ運営しているのが中村佳奈さんだ。

自宅に帰れない患者を目の当たりにして

 愛媛で生まれ育ち、高校生のときテレビで目にした作業療法士に興味を持った中村さん。「未知の世界で、とても新鮮に感じたんです」。作業療法士は、病気やケガなどによって日常生活に支障をきたした人に、身体的・精神的なリハビリを行う専門家。当時はまだ養成機関が少ない中、香川の国立病院付属校を卒業後、作業療法士として病院に就職。24歳で同業の夫と結婚して北九州へ転居後も、仕事を続けた。「リハビリによって患者さんが回復されていく姿にやりがいを感じました。ただ、ショックなことも…」と打ち明ける。「脳卒中や脊髄損傷などで麻痺を生じた患者さんは長期入院されていて、自宅に帰る見込みがない。そんな状況に愕然としました」。
 「何とか家に帰してあげたい」、その一心で同僚たちと病院に懇願し、訪問指導をスタート。長期入院患者の自宅を訪ね、手すりをつける場所からサポートの仕方、生活上の注意点まで家族にアドバイスすることで、帰宅できるケースが出てきた。「患者さんが帰宅したときの笑顔を見るのが、何よりの喜びでした」と振り返る。仕事に打ち込む一方、25歳と30歳で出産。長男は生後7か月、次男は2か月から保育サービスを利用して、職場に復帰した。

専門学校の教員とショップの運営を両立

 40歳を目前に、中村さんに転機が訪れる。リハビリ専門学校の専任教員にならないかと知人に頼まれ、「未知の世界を体験するのもいいか」と流れに身を任せ引き受けた。間もなく、次の波がやってくる。以前から携わっていた障害者が物づくりをする作業所の協議会に、北九州市からアンテナショップをしないかと打診されたのだ。「直感的に面白そう!と思い、思わず私にやらせてくださいと後先考えず手を上げました」。教員業の傍ら、札幌の店へ視察に行くなど、1年半かけて準備。店を構えることになった商店街の人たちには「一緒に街づくりをしましょう」と迎えられ、地元企業からはユニバーサルデザインのトイレや車を寄贈してもらった。「オープン前からこれまで、本当にたくさんの企業や人に支援していただきました」と温かい出会いに感謝している。

買っていただく商品をつくる喜びと難しさ

 店に並ぶのは、北九州市内の障害者が心を込めて作った雑貨やお菓子など。個性豊かなものが多く、眺めているだけで楽しい。「作業所は、彼らの日中活動の場所で、その活動の一環として物づくりをしていたんです。それが、この店ができたことによって『買っていただく商品をつくる』という意義が生まれたのです」。目下の課題は「お客さんのニーズに合った商品づくりの仕組みを整えること」という。つくり手に改善点や要望を伝えても、一般企業のように臨機応変に対応してもらうのは難しい。「障害者を支援するのが目的なのに、強いるのは…」とその狭間で揺れることもある。「大量受注をしても、ひとつの作業所のキャパは限られています。他の作業所と協力したり、企業とコラボする道も探りたい」とよりよい道を模索する日々だ。また、市のイベントに参加したり、障害者とのふれあいや理解を深めるためのフェアも開催。「商品をつくった本人が店頭に立ち、いろいろな人に接してイキイキとする様子を見ると、私の疲れなんて吹き飛びます」。

幸せなエピソードが次々と生まれる場所

 オープンから4年、「うれしい出来事は山ほどありますよ」と声を弾ませる。たとえば、長年自宅にひきこもっていた若者が、母親に引っ張られてカフェに来た後、ひとりで訪れるようになった。パートとしてこの店に3年勤めていた男性は、一般企業に就職した。持病のため職を転々としていたが、ここでの経験を糧に初めて社員になったのだ。
 さらに、障害者自身や支援者から「小倉の中心街は出かけやすくなった」という声も耳にするように。「街の人がやさしく声をかけたり、気にかけたりしてくれるそうです。街の変化を実感して、心から感動しています。これからも、障害のあるなしにかかわらず、子どもから高齢者まで、みんなが助け合い暮らしやすい街づくりに貢献したい」と、ふわっと柔らかく微笑む中村さん。自身が切に願い、店が目指す「みんなにやさしい街づくり」は、着実に進んでいる。たったひとつの店が秘めた存在感と可能性は大きく、障害者やそこに関わる人、街全体の未来まで明るく照らしている。 

                                                                                                         (2012年11月取材)

コラム

わたしの大切な時間『おいしい時間』

「私の楽しみは、毎晩うちで赤ワインを飲むことですね」と笑顔がこぼれる中村さん。一緒に飲むお相手は、息子さんなのだとか。今は夫婦と長男の3人暮らしで、パートナーが仕事で家を空けることも多いため、ふたりで飲む機会が増えているそう。「仕事の話をしたり、サッカーについて語ったり。たわいないおしゃべりも多いですよ」。長男は福祉の仕事に就き、次男は専門学校でリハビリを勉強中。ふたりとも両親の後ろ姿を見て育ち、同じ福祉の道を志したのだろう。

プロフィール

愛媛県の農家で、三姉妹の長女として生まれる。地元の高校を卒業後、香川にある国立病院付属学校に進学。卒業後は作業療法士として、松山のリハビリ専門病院に就職。24歳で結婚のため北九州へ。一般病院に勤務し、同院が展開する老人保健施設やデイケア施設にも勤務。2003年、下関リハビリテーション学院の立ち上げに伴い、同学院の専任教員になる。2012年から小倉リハビリテーション学院副学院長に就任。また、2008年から2014年3月まで、NPO法人北九州小規模連の理事として、「一丁目の元気」を運営。

 

 

 

 


 

 

 

 

キーワード

【な】 【NPO・ボランティア】 【福祉】

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