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吉廣 啓子(よしひろけいこ)さん(2012年11月取材)

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公益財団法人福岡県女性財団 代表理事  / 前苅田町長(取材時:苅田町長)

ボランティアの延長にあった町長職~「人は財産」をモットーにまちづくり~

 

相手の立場から物を見る

 月曜日の朝は、庁舎内に花を生けて回る。「入り口に消毒液だけ置いてあるより、気持ちがいいでしょう?」。自宅に客を迎える感覚で、心配りする。
 北九州市の南側に位置する苅田町。大手自動車メーカーの工場などが集まる企業城下町で、2005年から町長を務める。県内で2人目、同町では初めての女性町長だ。
 前町長が病に倒れ、周囲に請われての立候補。それまで、政治家になるとは考えもしなかったが、「地域づくり」への視点は、別の立場で磨いていた。約20年間続けた地元でのボランティア活動だ。
 地元の高校で英語を教える傍ら、40代で朗読ボランティアとなり、町報や書籍を朗読・録音。聴覚障害者や高齢者にテープを届けた。親しくなった利用者からは、移動介助や雑用も頼まれるようになり、中には、登山への同行など不慣れな分野も出てきた。そこでひらめいたのが、ボランティア団体同士の連携。「それぞれの得意分野を引き出せば、幅広く対応できる」と、苅田町ボランティア連絡協議会(通称・ボラ連)を立ち上げた。
 新生児がいる家庭で、上の子どもの世話や塾への送迎。おばあさんが美容院に行く間のおじいさんの食事介助…。出向くだけでは終わらせない。朗読の場合なら、読むスピード、抑揚の程度などで利用者に不便がなかったか、事後に確認するよう心がけた。「自己満足のための活動はいらない。相手の立場から物を見て、本当に必要とされる存在になることを仲間と目指しました」。

両親の姿から学んだ信念

 「人は財産」が信念。それは、両親の姿から学んだという。寺だった実家は経済的に厳しく、習い事などできなかったが、「習字や裁縫、そろばん、絵の描き方、掃除の仕方など、両親が身につけていた心得は何でも与えてくれた」。また、女だから男だからと言うことはなく、当時女性の進学率が低かった大学への道も、特別奨学金を受けることで認めてくれたという。
 金銭的な苦労を、人の力や知恵、思いやりで乗り切る―。そんな原体験は、ボランティア活動の礎になった。象徴的なのは、ボラ連の運営方法。行政からの補助金は一切もらわず、資金は仲間と稼いだ。“大黒柱”は、町の施設内にオープンしたレストランの収益だった。
 「仲間の主婦たちの知恵と心配りはすごかったですよ。自家栽培の野菜を提供してくれたり、自宅庭の花をテーブルに飾ってくれたり、頼まなくてもどんどんやってくれた」。食材は野菜の皮まで無駄なく使い、しかも、それがおいしい。レストランは大好評で、年間売上も1000万円を超えたため、有限会社化。スタッフから給料の1割をボラ連に寄付してもらい、運営の支えにした。自主自立の空気の中、活動は軌道に乗った。

夢は、もう一度ボランティア

 町長に就任した当初は、ボラ連と役所内の意識の違いに驚いたという。誰も庁舎前の雑草を取らない。来庁者向けの掲示物もごちゃごちゃ。業務外のことには無関心で、「喜ばれたい」という心が感じられなかった。「でも、それは押し付けることではないと思った」。だから、自ら庁舎内に花を生け始めた。そんな町長の背中を見て、職員たちも変わった。植物の水やりやグリーンカーテンづくりなど、業務外の仕事も積極的にやるようになった。
 執務でも改革を試みた。就任7年目の2012年にようやく、初めての女性課長誕生に至った。「町をよくするには、男女が政策決定過程に関わることが重要。ただ、最後に問われるのは個人の感性や力量です。男性と同じようになれという意味ではなく、女性にももっと力を磨いてほしい」とエールを送る。
 人づくりを重視し、少人数学級制度や放課後の居場所づくりなど教育関連に力を注ぐ一方、学校前の通りに子どもたちと花を植える取り組みも実施。「自分で植えた花は踏み倒さないでしょう? 些細なことに見えるけど、世の中って結構、ちょっとした心配りで変わる気がするんですよ」。
 政治家と呼ばれると、いまだに違和感があるという吉廣さん。「夢は、もう一度ボランティア活動をすること」。人と人とのつながりがとことん好きだと、その笑顔が物語っていた。

                                                                                    (2012年11月取材)

コラム

「リフレッシュの時間」

 緊張感を伴う町長職。「一番リフレッシュできるのは、ボランティアや教育委員時代の仲間たちとのおしゃべりですね」。よく学び、よく遊ぶ、気が置けない友人に、いつも元気をもらうという。
 「最後は本当に人に尽きます。人に恵まれたことは本当にありがたい」。公私ともども、人と交わることが生きがいだ。

プロフィール

苅田町出身。九州大学文学部英文学科卒業。福岡県立高校の英語講師になり、約30年間、教育現場に携わる。1987年から苅田町教育委員、2002年から、苅田町ボランティア連絡協議会会長を勤める。主として文化、教育、福祉の分野で活動を続けた。2005年苅田町長に就任。2017年11月12日、3期12年の任期を終え退任。2011年には、全国の女性町長が集まって地域づくりについて語る「第2回全国女性町長サミットinかんだ」を開催した。2019年6月、公益財団法人福岡県女性財団代表理事に就任。

 
 
 

キーワード

【や】 【政治・行政】 【NPO・ボランティア】

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