【ロールモデル】
ロールモデルとは
NPO法人北九州サステイナビリティ研究所理事長/ UN Women (国連女性機関) 日本国内委員会副理事長・北九州会長
現在、様々な団体の顧問や理事長、会長をしている三隅さん。かつては教員として働いていたが、退職後は子育てに専念した。
子どもが小学校に通いだした頃、教員時代の同僚から「教員をしていた経験を活かして、PTAの役員をやってくれないか?」と頼まれた。断る理由もないと思った三隅さんは、PTAや母の会の活動を始め、子どもの健全育成を目指す活動に取り組んだ。その後、北九州市から声がかかった。「社会教育指導員をお願いできないか」と。
そこでは当時“同和問題”の学習が行われていた。「それまでの私には、問題の本質が理解できていませんでした。しかし、指導員として働き、勉強していくうちに、『本人に責任はないことで、差別は作られていたのか』と思うようになりました」と振り返る。
そのとき三隅さんは思った。女性差別も同様ではないかと。「女性として生まれたことも本人の責任ではないのに、『女性だから○○』と不合理や不利益な差別がされていました。差別は社会が作っていると気がついたんです」と語る。
1975(昭和50)年の「国際婦人年」以降、社会では女性の地位向上についての機運が高まっていた。そして、1982(昭和57)年、それまでの三隅さんの実績が認められ、北九州市に広報室広聴課長として採用された。北九州市の民間採用では、女性初の管理職だった。
市民と行政の橋渡しを行っていた三隅さんは、1983(昭和58)年には民生局福祉部婦人対策室の初代室長となり、1985(昭和60)年にケニアのナイロビで行われた「国連婦人の十年 最終年世界会議」NGOフォーラムへ、女性団体の代表たちと共に北九州市女性代表団として参加した。
「この会議で、開発途上国では男女にかかわらず“生きていくこと”そのものが大変だということ、特に女性は教育も受けられない人が多いということ、日本などの先進国では“生きていけるが男女平等でないこと”が課題であるという実情を知りました」。
もっと国際的な視点を持たなければと考えるようになった三隅さんは、「北九州はアジアに近いので、アジアの女性の地位向上のための仕組みを作りたい」との思いを胸に、1990(平成2)年、ふるさと創生事業として「アジア女性交流・研究フォーラム」の設置を提案し、実現した。
男女共同参画について、三隅さんはこう述べる。「男女共に住みやすい・幸せになれる社会を創っていくことが大切だと思います。昔の主婦は子どもも多く、炊事、掃除、洗濯と、1日中家事に追われていました。今は電気炊飯器と洗濯機のスイッチを入れ、その間に掃除機をかけられる。子どもも少ない。男女関係なく誰にでもできます。また、スーパーで買い物かごを持っている男性の姿は当たり前になりました。社会の中に男女がいるのは当たり前、上・下とか主・従とかで差別に結びつかなければ良いのです。時代の変化や要求に合わせて、考え方を変えなければなりません」と。
現在では、男女共同参画社会だけでなく、地球温暖化や自然災害といった環境問題を考えつつ、環境に配慮した経済の発展や公正な社会はどうあるべきかを考えている三隅さん。「北九州ESD協議会(※)」で市民の住みやすいまちづくりに取り組んでいる。「持続可能な社会の実現に向けて、真面目に責任を持って行動し、みんなが住みやすい社会の実現を目指したいんです。私の知恵と体力が続く限り活動します」と笑いながら語る。
※ESD=Education for Sustainable Developmentの略。持続可能な開発のための教育。
(2011年3月取材)
三隅さんがお気に入りの言葉がある。映画「ライムライト」でチャップリンが言う「人生に必要な物は夢と希望とsome money」だ。「“many money”でなくていいんです。生活するだけの少しのお金と、夢と希望があればいい。それが、男性も女性も関係なく、人間らしく生きていくために必要なものだと思います」と語る。そしてモットーは、「“たのしく”“ただしく”“たくましく”のサンタ(3た)です」と笑顔で教えてくれた。
北九州市出身。教員をしていたが、子育てのため退職。子どもが通う小学校のPTAや母の会の役員を務めたことをきっかけに、女性問題にかかわる。1982(昭和57)年、北九州市としては女性初の民間採用での管理職(広報室広聴課長)となり、民生局福祉部婦人対策室初代室長、市民局女性行政推進部長などを歴任。北九州市立男女共同参画センター「ムーブ」の初代所長も務めた。「財団法人アジア女性交流・研究フォーラム」理事長・会長を経て現在顧問、「北九州ESD協議会」副代表、「NPO法人北九州サステイナビリティ研究所」理事長、「UN Women(国連女性機関)日本国内委員会」副理事長など、様々な団体で主な役を担っている。2006(平成18)年、内閣府男女共同参画社会づくり功労者表彰受賞。
キーワード
【ま】 【NPO・ボランティア】 【国際・まちづくり】