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本田 光子(ほんだみつこ)さん (2011年3月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

九州国立博物館 学芸部 博物館科学課 課長

市民との「協同」は、文化財保存の新しい力

 

あえて博物館の裏側をアピール

 東京、奈良、京都に次いで108年ぶりに誕生した、わが国4番目の国立博物館で、「博物館科学課」という聞き慣れない部署を束ねる本田光子さん。自らの仕事を「博物館の環境保全と文化財の保存修復を全体的にコーディネートし、それぞれの専門技術者と結びつけるフィクサー」と表現する。「博物館の一番の目的は、文化財を収集保管し、次の世代に伝えていくこと。モデル的な集大成である九博は、そのためのハードが非常に整っています」。
 これまで博物館や美術館では、“裏側の世界”を見せないのが主流だった。しかし私たちが作品の美しさに触れるその裏には、さまざまな努力がある。大盛況の展覧会では嬉しい反面、来館者が“持ち込む”埃との戦いに頭を悩ませ、「屏風に光を当てて見せたい」と希望があれば、照度や湿度管理に気を遣う。夏場の展覧会では、大勢の来館者によるトイレの水不足も深刻な問題だ。あえてそれを見せることで、文化財保存に対する意識や興味を高めてほしいと、同館ではバックヤードツアーも積極的に行っている。

華麗ならざる?地道な努力が結実

 本田さんの経歴は、“主婦からの華麗なる転身”というイメージで語られることが多いが、意外にも本人は「日本の博物館業界は世界一ポストが少ないと言われています。当時は発掘ブームで、日本中で発掘ができる人を探していたけれど、九州では女性の正規採用は皆無。だから元々アルバイトしかなかったんですよ」と屈託なく振り返る。
 最初に得た九州歴史資料館の仕事は、流産のため1年で退職。8年間の専業主婦時代を経て、福岡市埋蔵文化財センターで出土品の分析や保存処理に携わる。その間も、自宅での研究や論文執筆、学会への参加は続けていた。研究を何らかの形で公表し、社会に還元するまでは辞めないという決意の表れだった。
 こうして九州では数少ない、保存科学の専門家の地位を確立した本田さん。文化財学科を新設した別府大学、さらには九州国立博物館からの予期せぬ招聘に、当初は戸惑いも感じたというが、座右の銘である“一所懸命”の精神で受け入れた。「与えられた場所、与えられた条件の中で精一杯やりたいと思いました。請われれば、こんなに幸せなことはありませんから」。

文化財保存に専門家と市民の「協同」を

 女性であり、主婦であるがゆえに、非正規のアルバイト職しかなかった――弱い者の立場を、身をもって理解している本田さんが今、全力で取り組んでいるのは、文化財保存に市民参加の道を開き、「協同」のシステムを構築することだ。専門家にしかできないと言われてきた分野でも、細かくカテゴリーを分け、責任と役割、方針を明確に示せば、どこかの部分には必ず参画できる。高い能力を持ちながら発揮する機会を与えられずにいる人々に、望めば一生仕事ができる場を作り出したいと。
 「だって家のお雛様を守っているのは主婦ですから」と自信に満ちた笑顔で語る本田さんの思いは、九博の環境ボランティア(※注1)と地元の文化財整理パート主婦(※注2)からそれぞれ誕生した、2つのNPO法人となって実現した。3年間のボランティアや長年の整理作業で培った知識と経験を、これからも生かしてほしいという本田さんの呼びかけに有志が応えたのだ。今では、後者は株式会社化し、収蔵庫や露出展示物のメンテナンス業務を一般競争入札で獲得するなど、両者ともビジネスとして成功している。九博ならではの充実したハード面と、自らの経験に照らしたソフト面の融合。フィクサーとしての本田さんの手腕に、今後も期待したい。

※注1 九州国立博物館の環境ボランティア:九博では、文化財の生物被害対策として、化学薬剤による殺虫燻蒸だけに頼ることをやめ、建物の整備や空調制御、生息状況の把握、日常の清掃など、予防に重点を置いた総合的な環境管理に力を注いでいる。その中で市民による環境ボランティアは、温湿度データの収集や生物生息モニタリング、徐塵・防かび作業などに携わり、人の目と手で文化財を守る活動の一端を担っている。
※注2 文化財整理パート主婦:地元の自治体で発掘出土品の整理に長年携わったベテランの嘱託職員やパート勤務の主婦たち。
                                    (2011年3月取材)

コラム

本田さんの二女は「朱(あき)」、三女は「丹(にほ)」。専業主婦生活の楽しさに研究をおろそかにしてはいけないと自分を奮い立たせるため、ライフワークとする赤色顔料にちなんだ名前を付けたそうだ。「丹というのは、古代の錬丹術によれば不老不死をつかさどる仙薬。金よりも貴重な最高ランクのもので、中国では飲用されていました。永遠の命を求めて、きっと卑弥呼も飲んでいたはず!」と熱弁する本田さんの、「赤」への思いは尽きることがない。

プロフィール

東京都生まれ。明治大学文学部史学地理学科考古学専攻卒業、東京芸術大学大学院美術研究科保存科学専攻修士課程修了。九州歴史資料館、福岡市埋蔵文化財センター、別府大学文学部文化財学科助教授(のちに教授)を経て、2003年(平成15年)、九州国立博物館設立準備室主幹に。2005年(平成17年)の開館時から現職。ライフワークは弥生・古墳時代の赤色顔料の研究。大学院時代に結婚した夫との間に二男三女、孫4人がある。

 

 

 

 


 

 

 

 

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