【ロールモデル】
ロールモデルとは
有限会社M&E 木製玩具の店ドクスピール 代表、おもちゃコンサルタント
シンプルで上質な木のおもちゃが所狭しと並び、子ども以上に親たちの心をつかんで離さない木製玩具の店「ドクスピール」。店長の平野美由紀さんは、以前勤めていた小児歯科医院で木のおもちゃに出合い、その魅力に取りつかれた一人だ。「この素晴らしさを多くの人に伝えなければ!」と1995年(平成7年)、九州で初めて「おもちゃコンサルタント」の資格を取得。28歳で前オーナーから完全に店を引き継ぎ、15年が過ぎた。
「当時はまだインターネットも普及していなかったので、新聞や雑誌の取材記事を持って、遠方からわざわざ相談に来る方も。おもちゃと子育てに関する情報が本当に少なかったんですね。でも、求めている人はこんなにいる。そこに大事な役割があると感じました」
外遊びの機会が減り、“危険な”遊具が公園から撤去され、車移動ばかりの現代社会。子どもの発育や成長に必要な日常の行為・運動が圧倒的に不足しているからこそ、遊びの大切さを再認識してほしいと、さまざまな講座やイベントで呼びかけている。
絵本、工作、お絵かき、おもちゃ…それぞれに使命がある遊びの中でも、良質のおもちゃは優れたコミュニケーションツールだ。子どもも大人も、1人でも大人数でも一緒に遊ぶことができ、知らない者同士がおもちゃを通してつながり合える。空間を和らげ、心を豊かにしてくれる存在だ。特に重要なおもちゃとして平野さんが勧めているのは積木。大人の背丈まで積める数と形の積木を、なるべく早い時期に揃えてほしいと語る。
「いいおもちゃは大人になっても遊び方を覚えているし、遊んでいた頃の自分の姿を思い出します。でも流行のキャラクターおもちゃは『あれ持ってたよね』で終わり。どちらが心に響きますか? 一瞬で喜ぶ顔が見られるキャラクターおもちゃが“おやつ”なら、地味でも飽きずに遊べる積木は“主食”。親がきちんと見極めて選び、バランス良く与えなければいけません」
同様に、片付けの環境も大切だ。時間と空間、人の関わりの中におもちゃがあり、遊んだ後にきちんと片付ければ、そこが子どもの居場所になる。「家の中で、子どもが子どもらしくいられる場所を作ってあげることが、心身の安定につながります」。
今、平野さんは新たに「子育てドリームマップ」作りの構想を進めている。育児書と引き比べて「今○歳だからこれができないと駄目」と思い込みがちな親に、より広く長い目で子どもの成長を見守ろうと呼びかける、小学6年生までの長期的な子育て計画だ。
「『○年後にはできるようになればいいな』『だから今はこういうふうに接しよう』と、3年くらいのスパンで考えるんです。焦らずちゃんと待ってあげれば、いずれできるようになる。大人が押しつけるのではなく、子どもが自分で考え、選択することを身につけさせたい」
プロとしておもちゃを選ぶ以上、その届け方にまで責任を持つ“コンサルタント”。「何でも100%受け入れる子どもたちに、いい目をしてほしいだけです」。おもちゃと子どもの健やかな未来のために、九州各地を飛び回る日々は続く。
(2011年2月取材)
平野さんにとって、おもちゃはパワーをくれるもの。いいおもちゃに囲まれているから、お店にいるとイライラすることはないと言う。「木も太陽や土の力をもらっていて、触れると本当に心地いいんです。子どもたちだけでなくお父さんやお母さんも、ずーっと触っているうちに落ち着いてくれるので、少しイライラしてるかな?と思ったら必ず渡してます」
福岡市生まれ。電機メーカーのOLを経て転職した小児歯科医院で、木のおもちゃと出合う。1995年(平成7年)、九州で初めて「おもちゃコンサルタント」の資格を取得し、木製玩具と絵本の店「ドクスピール」を開業。医療・保育関係の講座や催事、ワークショップなどを通しておもちゃの大切さを伝え、子どもの能力を引き出す優れたおもちゃを紹介している。
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