経済は、方向感さえ認識していれば良いのです。細かい数字に一喜一憂する必要はありません。方向感は、三つの「さか」、つまり“上り坂”、“下り坂”あるいは、“まさか”です。“まさか”とは、リーマンショックやギリシャ危機のような、10年に一回程度、起きる経済全体がストップするような出来事です。
地域別の実質GDP(名目GDPから物価変動を調整した数値)をみると、2008、2009年に米国(世界経済の23%:2010年購買力平価修正前)でリーマンショックが起きて金融経済が破綻し、EU(同26%)も落ち込みましたが、不安定ながらも回復してきました。景気の良し悪しの判断基準は、実質GDPの成長率が3%(2015年以降は2%)を上回っているかどうかです。国際通貨基金(IMF)では、3%(同2%)を下回ると不況(recession)と定義しています。今年は、3%超なので、方向感は上向きです。先進国の世界全体に占めるウエイトは58%(うち日本9%)、新興・途上国が42%で、ほぼ半々。実体経済ではグローバル化が進んで各国のつながりが強まってきていること、金融経済ではIT(先物取引、コンピュータによる株取引など)の影響で不安定になっていること、が最近の特徴です。
ここ数年、新興・途上国の成長率が下がっているのは、中国の伸び率鈍化によるものです。製造業が不振なので、資源価格が下落して、ブラジルなど資源国の経済も悪化しました。先進国では、米国が回復し「一人勝ち」の状態です。内需中心に堅調に回復しています。米国は、移民が増え(社会増)、出生率も比較的高い(自然増)ことに加え、外国の人達に活躍の場を与えていることにも着目すべきです。とはいえ、雇用者は、量の面では良いのですが、質の面(労働参加率、賃金上昇率)ではそれほどではありません。ユーロ圏は揺らいでいますが、2015年初から金融緩和政策に転換したため、安定はしています。また、加盟国を増やして、圏内の人口を増やしていく形で経済成長を目指しています。ギリシャ危機による影響が懸念されていますが、ユーロ圏の体制は維持されるというのがメインシナリオです。
日本には、「水」という自然資本があるのは強みです。水ビジネスは農林水産業全ての基本です。GDPの6割を占める個人消費は、給与が若干増えても物価上昇で手取が増えないことに加え、増税が続くという意識ですので、生活防衛の傾向が強まっています。大企業は国内投資を控え海外に積極的に投資してきましたが、円安になっても一度出たら戻りにくいという状況です。
次は、企業の経営課題についてです。外部環境を政治(Politics)、経済(Economics)、社会(Society)、技術(Technology)毎に分析(PEST分析)すると、「経済」という小さな池に、「政治」「社会」「技術」という大きな石が入って大きな波が立ちます。このうち「社会」の分野で人口減少に拍車がかかっている今、量から質への価値観の転換が必要です。IT化が進みデフレが進行していますが、ロボット(人工知能)やiPS細胞など、新技術の到来でのプラス面もあります。
世界は、「地球丸ごと高齢化」です。中国の生産年齢人口(労働人口)も今年(2015年)がピーク(一人っ子政策の転換による効果は不透明)で、産業構造を転換して、付加価値を上げていかなければなりません(労働生産性=付加価値/労働者数)。経済は、生産性こそ全てです。今後、アジア諸国の「一人当たりGDP」はますます上昇し、日本への観光客数が増えて単価も上がっていきます。一人当たりGDPの高い国は、国外から何か集まるか、国外に何かを出している国です。地域経済も同様で、域内外の交流がカギです。
日本の経済では、「働き方」と「起業家精神」がこれからの二つのエンジン。働き方を変えれば、多様な人材が集まります。労働生産性を高めるために、IT等の技術の活用、産業同士の組み合わせ等の工夫が必要です(産業のGDP=(A)労働人口×(B)労働生産性)。モノが溢れる時代にイノベーションを起こすためには、何でもいいので組み合わせ、やってみて反応があれば突っ込んでいくことが大事です。面白い情報(アイデア)はネットに出ません。誰かに聞いて、自分の知恵と他人の知恵を組み合わせれば、本当に面白い商品・サービスになります。
最近のマーケットの変化について紹介すると、これまで取引のなかった老舗企業と大企業がコラボして空間を演出して成功した事例があります。現代のスピードや利便性のトレンドとは真逆の市場(サードウェイブ:ゆったりと過ごすパーソナル志向)が生まれ始めています。
最後に、女性の活躍です。やらなければ市場は生まれないし、派生する市場を見極める視点も必要です。女性の強みは、①価格設定が大胆、②理念がぶれない、③社会性がある、この三点です。地域で起業する女性が増え、女性の活躍で男性が変わることを願っています。マーケティングの時代の次に来るのは、創造の時代です。小さくても、まずは自分で市場を創ることが重要です。
【講師プロフィール】
北九州市出身。早稲田大学卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。米国スタンフォード大学客員研究員、日本政策投資銀行産業調査部長、同行チーフエコノミストなどを経て、2013年から現職。長年にわたり国内外の経済産業について分析を行い、ものづくりや人材育成にも詳しい。
タイトル | ふくおか女性いきいき塾 ③社会経済 |
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開催日時 | 2015年7月19日(日) ~2015年11月19日(木) |