今日の講義では、「男女共同参画」の意義とその推進状況の国際比較、女性が活かされて こなかった背景、「女性が本当にいきいき活躍できる」ためには何が必要なのかについて、お話しします。男女共同参画は、現代社会の抱える様々な問題に回答を与えるような課題です。
最近、「女性の活躍」が注目されていますが、女性の対等な参画がないと、女性は「労働力」になっても、能力を生かせず評価もされません。また管理職にも登用されないので意思決定に参加できません。「男女共同参画」がない「女性の労働力化」は、今日本社会が必要としている「女性の活躍」ではありません。「女性がいきいき活躍する」ためには男女共同参画が前提なのです。1999 年に「男女共同参画社会基本法」が制定されましたが、この法律は、国連差別撤廃条約に基づき、固定的な役割分担を是正しなければならないというもので、性別にかかわらずすべての人が本人の意思と選択に応じて能力を十分に発揮できるような社会であるべきだと規定しています。
日本の男女共同参画の推進状況の現状を国際比較でみると、2014 年に世界経済フォーラムが公表したGGI(ジェンダー・ギャップ指数)では、142か国中104位と大変低く、先進国で最低レベルです。この指標は、経済、教育、政治、保健の4分野からなりますが、経済分野(102位)や政治分野(129位)が特に低く、女性が政治・経済活動に参画し、意思決定に決定する機会が不十分であることがわかります。
1960年代に形成された「日本型雇用慣行」(既婚女性に家事・育児・介護責任をすべて負わせ、男性を長時間働かせることができるシステム)の変革が進んでいないため、現在でも雇用における男女格差が著しく、男女共同参画の度合いが国際的に見て非常に低い社会になっています。日本型雇用慣行と性別役割分業社会を前提とした非正規労働は、既婚女 性向けの賃金として設定され、時間当たり賃金も正規労働者の4割台と大変低く、非正規率が増えたことで、未婚化、晩婚化、少子化が進行するとともに、女性の貧困が問題になり、特に若年女性やシングルマザーは深刻です。
激動する世界の中で、日本の相対的な地位は低下し、右肩上がりの経済から右肩下がり に転換し、経済成長率も低迷する中、人口減少社会へ突入しています。「経済成長率」=「人口増加率」×「一人当たりの生産性の向上」ですので、このままでは経済成長を見込めません。成長率を上げるためには、長時間労働をやめ効率的に働いて生産性を上げる必要があります。また人口減少を止めなければいけません。人口減少の背景にあるのは、家族形成力の低下、未婚化、少子化で、働いても自立できないような労働条 件下で働く非正規労働者の待遇改善が不可欠です。また、家事労働部門の商品化・社会化は、世界では成長産業ですが、日本では、才能ある人材が活かされず世界から遅れています。男女共同参画を推進することで家族形成力が向上し、男女の不安を除去でき、女性も経済力を持ち、子育てと仕事は両立でき、子どもや家族を持ちたいと思う人も増えます。 家族が強くなると、消費もうまく回り日本が活性化するのです。
そのためには、①家族についての固定観念を変え、多様な家族の在り方を認める、②「女 性個人の能力」についての固定観念を変える、③女性が担ってきたが故に低く評価されてきた領域(子育て・介護・ケア・手仕事・料理等)の評価を変え、社会的重要性に見合うものにする、④ワーク・ライフ・バランスを実現し、短時間労働者差別をやめ均等待遇を実現する、⑤「女性の社会認識」を正当に評価し女性の問題認識を生かすとともに、意思決定過程への女性の参画を促すことなどが必要です。
女性が活躍できる男女共同参画社会を実現するためには、男女共同参画への理解を浸透し、社会構造を変革しなければなりません。それは、男性にとっても大きな意義があり、日本社会の活性化にとっても有効で、社会的連帯の向上、地域社会の活性化、ひいては、経済成長にとっても有意義なのです。
【講師プロフィール】
東京都立大学助手、お茶の水女子大学助教授を経て現職。社会学、ジェンダー論の専門で、第一人者として多数の著書を執筆。各地の男女共同参画センターや大学、企業向けの講演も数多く行っている。
タイトル | ふくおか女性いきいき塾 ①男女共同参画 |
---|---|
開催日時 | 2015年7月18日(土) |