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【センター長コラム No.91】 私の読書ノート――『存在しない女』とは。  (2023年4月19日配信)

こんにちは。

ハナミズキが咲きました。美しい白色に、すがすがしい風を感じます。

君子蘭も咲きました。地植えで手入れが行き届きませんが、雪害や虫害に耐えて花を咲かせました。

お変わりありませんか。

  

 

皆さんは、日頃、どんな本を読まれますか。

 

「あすばるライブラリー」には、話題のトピックやくらしの中のキーワードなど、いろいろなテーマを設けて、テーマに関連する本を紹介する「企画展示」のコーナーがあります。

 

現在行っている企画展示は、「人生100年時代、上手に歳を重ねよう」というテーマと、「新しい生活のスタートを切った新年度の今の時期に、ワークライフバランスについて考えよう」というテーマの2つで、それぞれ、30~40冊ずつを紹介しています。こんな本があるのかという思わぬ発見もあると思います。

 

また、ライブラリーには、企画展のほかにも、貸出の多い図書ランキングコーナー、センター長おすすめ図書コーナーなどもあります。

気候もよくなり、お出かけの季節になりました。是非「あすばるライブラリー」にお出かけください。

 

 

さて、今日は、私が最近読んだ本の中から、何冊かをご紹介したいと思います。

 

冊目は、キャロライン・クリアド=ペレス『存在しない女たち』(2020年)です。

ちょっとセンセーショナルなタイトルですが、この本は、人口の半分を占める女性を考慮しないとどのような不都合が生じるかを描いた本です。

 

著者のクリアド=ペレスは、医療分野のジェンダーギャップを取材中に、臨床試験における女性のデータが著しく不足しているせいで、女性患者が健康上の重大なリスクにさらされていることを知り衝撃を受けたことをきっかけにこの本を執筆したそうです。

 

彼女は、医療に限らず、都市計画、交通システムなど、ありとあらゆる分野で女性に関するデータが不足しており、女性のニーズを取り入れることなく計画や開発が行われているので、その結果、女性の生活に大きな被害が生じていると指摘しています。

 

計画や開発の担当部門、意思決定を行う場に女性がいないため、気づかないうちに女性の存在は忘れられ、無視され、男性が普遍的とみなされるようになるのです。

つまり、「存在しない女」とは、男性の目に「見えていない女」であり、それによって、女性の姿は、文化からも、歴史からも、データからも切り捨てられていく―――では、どうすればよいか。女性がそこにいて、声を上げれば状況は変化すると訴えています。

 

この本は、変革を呼びかける、示唆に富んだ本です。

 

さて、「あすばる」では、情報誌『あすばる~ん No.108(2023年春号)』で、理工系分野の男女共同参画を特集しました。巻末のコラムにも書きましたが、科学技術と切り離せない現代社会において、理工系分野に女性が少ないことは、研究領域の人たちだけの問題ではなく、私たちみんなの生活に関係する重大な問題だといえます。

 

例えば、ジェンダー中立と思いがちなAIも、AIに学習させるデータに男性側に立った偏りがあれば、ジェンダー不平等が内在するAIになります。今後、AIに依存することが多くなる今こそ、女性がそこにいることが必要ではないでしょうか。

 

 

次にご紹介するのが、冨永絵美『そめおりくくり 久留米絣と人』(2022年)です。

 

この本は、久留米絣の産地である福岡県の筑後地区に位置する広川町の地域おこし協力隊として活動した著者が、久留米絣に携わる女性たちに行ったインタビューをまとめた小冊子です。

 

書名は、絣生産の3要素である「染め」、「織り」、「括り」からとられたものです。

冨永氏は、経営者や職人として語る機会の多い男性に比べ、語る機会の少ない女性の声を外に届けたいと、染めや織りの生産現場にいる女性に、仕事のことや生活のこと、人生などについて語ってもらっています。

 

あすばる~ん No.107(2023年冬号)』の巻末コラムをはじめ、私はいつも、歴史の中に女性が見えない、女性に関する史料が少ないことを指摘しています。このように「記録に残す」、「書物に残す」ことは大変意義のあることだと思います。

 

 

次に、占領期の女性の歴史に関する書物として非常に興味深いのが、上村千賀子『占領期女性のエンパワーメント――メアリ・ビアード、エセル・ウィード、加藤シヅエ』(2023年)です。

 

上村千賀子氏は、占領期の女性政策研究の第一人者で、この本は、『女性解放をめぐる占領政策』(2007年)、『メアリ・ビアードと女性史――日本女性の真力を発掘した米歴史家』(2019年)に次ぐ3冊目の占領期の女性についての研究書です。

 

メアリ・ビアードはアメリカの歴史家、エセル・ウィードはGHQ民間情報教育局の女性問題担当官、そして加藤シヅエは、占領期にGHQが女性政策の顧問として頼った政治家です。

 

上村氏は一貫して、女性を「男性に従属し抑圧されてきた客体ではなく、男性とともに歴史を動かしてきた主体である」というメアリ・ビアードの歴史観に着目して研究を行っており、本書は、メアリとウィードの間で交わされた往復書簡を手がかりに、占領期の政治世界の表舞台で、女性が主役となり脇役となって演じられたドラマと、その舞台裏で女性によって繰り広げられた陰のドラマを描き出した大変興味深い研究です。

 

歴史を研究する上で、当時本人が書いた日記や手紙といった史料を「第一次史料」といい、最も重要な史料ですが、本書は、多くの第一次史料を丁寧に読み込んで書かれた貴重な研究書です。是非お読みください。

 

 

そのほか、楽しく読める本として、「悪魔のおにぎり」で有名な南極越冬隊の調理隊員・綿貫淳子『南極ではたらく かあちゃん、調理隊員になる』(2019年)、絵本作家・園芸家として人気のターシャ・テューダーの子育てを描いた、セス・テューダー『ターシャ・テューダーの子育て』(2022年)、NHKで放送されていた「やまと尼寺精進日記」の放送が終わったあとの「やまと尼寺」で、今も変わらぬ日常生活を続けている住職を取材した、NHK「やまと尼寺精進日記」制作班『やまと尼寺精進日記3 ひとり生きる豊穣』(2022年)もおすすめです。

 

ここに紹介した本以外にも、センター長おすすめ図書コーナーには、興味深い本をおいています。
是非、「あすばるライブラリー」にお越しください。

 

 

終わりはマイ農園だよりです。

ブルーベリーが花盛りで、毎日ミツバチがやってきます。山椒にもたくさん花がつきました。

ではまた。                           (2023.04.19)

 

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