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【フォーラム2014】基調講演

イクメン・カジダンのすすめ ~キッチンで育む人間力~

 

 近年、家事や育児に積極的に関わる男性が少しずつ増えています。「男性の家事・育児参画」は男性の家庭内自立、妻の負担軽減や就労支援だけでなく、子どもの成長にも良い影響をもたらします。今回は、料理研究家のコウケンテツさんをお招きし、料理家の目を通した日本の食の現状、父親の目から見た子どもの食、そして、男性の家事・育児参画についてお話いただきました。

人の寿命は、食べた野菜の量に比例する

 

 仕事柄、料理の流行や食に関する様々な問題が見えてきます。昨年「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、今や世界中で多くの人に支持されています。しかし、日本での一人当たりの野菜の消費量は、年々低下しています。一方、アメリカでは増えており、1995年に日本を追い抜きました。

 アメリカでは1960年代にファーストフードが登場し、安価で便利だと重宝されました。すると、たちまち肥満や成人病が増え、大きな社会問題になりました。そこで1991年「5A DAY運動」という、一日に5皿以上の野菜を食べようとする運動を始め、その結果、食生活の改善が進みました。

 日本の場合、都道府県別平均寿命ランキングと野菜消費量のデータを見ると、野菜を食べる地域の人の方が、健康的で長生きしていることがわかります。つまり、人の寿命は、食べた野菜の量に比例するのです。

食べ物が将来に影響を及ぼす

 

 男の料理研究家ということで、ガッツリした料理を求められることもありますが、私が食の問題を考えるようになったのには、きっかけがありました。

 7~8年前に関わったテレビ番組内で、極端な食生活を送る若者に、食に対する意識を改善してもらおうという企画がありました。そこで、ある大学生の現状を知り、愕然としました。それは、朝昼晩、全ての食事をチョコバーだけで済ますもの。お金や時間がないことを理由に大きな問題として捉えていません。今食べている物が5年・10年後の自分の身体を作ること、食べ物が原因で病気になり、将来生まれてくる子どもの体質にも影響を及ぼすことを伝え、ようやく理解してもらえました。今はインターネットなどで、グルメ情報は容易に手に入りますが、こんな大事な情報を若い世代が知らないことが残念でした。

ご飯を食べているときが、家族のことが一番よくわかる

 

 4人兄弟で貧しい家庭に育ちましたが、夕食時、家族はもちろん近所の人まで一緒に食卓を囲む時間は大好きでした。母は仕事をしながらも、毎日、朝昼晩の食事を作り、睡眠時間が2~3時間程度になることもありました。そんな多忙な母に、なぜいつも料理を作り、みんなで食べるのかと聞いたら「ご飯を食べているときが、家族のことが一番よくわかる時間だから」と答えました。

 また、病弱だった私の体質を、食事によって改善しようと努力し続けてくれました。その甲斐あって喘息はおさまり、風邪ひとつひかない元気な体になったのです。まさに母の手料理のおかげだと感謝しています。仕事熱心な父親のことは尊敬していましたが「もうちょっと家のことを手伝えばいいのに」と幼い私は考えていました。そうして、食や家庭のあり方を、私のフィルターを通して子どもたちに伝えたいという気持ちになりました。

 子どもが包丁や火を使うことは危険で心配ですが、体験を通して学ぶ機会になります。料理を作る前と後では、表情がまるで違います。自分で作ったという達成感を得て、自信が芽生えます。苦手なものも食べるようになります。さらに生産者さんから育てる苦労を聞けば、食べること本来の意味も感じ取り、最後までちゃんと食べようという責任感が出てきます。そこに男性が関われば、子どもの成長が手に取るようにわかると同時に、食事を作る大変さを知ることにもなります。

男性の家事・育児参画が日本の未来を築くことになる

 

 今、社会が女性の力を必要としています。女性は家庭に入るだけでなく、仕事をするという選択肢が増えました。共働きになると、当然、男性も家事・育児をしないと成り立ちません。しかし、家事に関わる時間の男女差が大きいのが現状です。2014年10月に世界経済フォーラムが発表した世界各国の男女格差を指数化した「ジェンダー・ギャップ指数」を見ても、142カ国中日本は104位。とても先進国とは思えません。NHK放送文化研究所の世論調査で「結婚しても幸せになれないと思う女性が多い」というデータが出ているのもうなずけます。子育てしながらの家事は本当に大変です。専業主婦でも、家にずっといたら追い込まれてしまいます。同じ調査で、夫の家事時間が長くなるほど、幸せだと思う女性が多くなる結果が出ています。私は、男性の家事・育児参画、女性の社会参画のイベントのために日本各地を回っています。そこでいろんな方と話をした結果、「結婚して良かった。子育ても仕事も生活も楽しい」という女性の家庭に、共通点を見出しました。

 まず、家事・育児は家族みんなでシェアするものであり、妻は「女性がやるべきだ」と思っていません。夫は「手伝う」のではなく「自分のやるべきこと」という意識を持っています。次に、何をしてほしいのか、何をしてほしくないのかを夫婦で話し合っています。そして、パートナーを褒めること、言葉で感謝を伝えることを大切にしています。

 私が自ら家事・育児をすると、子どもたちは真似をし、家庭の中に安心感が生まれました。男性が家事・育児をすると、女性が社会に出やすくなり、地域が明るくなります。そして共に手を取り合うことが、日本の未来を築いていくことに繋がります。

 さあ、今日は男性が料理をして、素敵な晩ごはんにしてはいかがでしょうか。




 

【フォーラム2014】

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