長引く構造不況、そして今年は追い討ちをかけるような未曾有の東日本大震災に見舞われた日本社会。災害からの一日も早い復興が求められています。経済復興と男女共同参画…一見、直接の関連がなさそうですが、「男女共同参画社会の実現」こそが経済活性化・地域活性化のカギなのです。
そう訴えておられるのは、著書「デフレの正体」のベストセラーでも知られる藻谷浩介さん。豊富なデータに基づき、男女共同参画社会の実現の重要性についてお話いただきました。
東日本大震災は各地に甚大な被害をもたらしました。宮城県女川町もその一つ。町の95%以上が崩壊してしまい、現在も復興はあまり進んでいません。被害が拡大したのは、50年前に来た3メートルの津波を想定した防災計画であったため、17メートルという大津波に対応できなかったからです。しかし実際に1100年前には同じ規模の津波が来ていたのです。
ここでちょっと考えなければならないのは、人間は、ごく最近起きたことだけで、昔からこんなものだったと決めつけてしまっているということです。
これは、男女共同参画にも言えることで、「女性は家の中で家事をする」という考えは、あたかも大昔からの習慣のように言われていますが、せいぜい50年くらい前からの話です。戦前は、経済的な余裕もありませんでしたから、当然のように女性も働いていたのです。
どこまでさかのぼると本当の姿がでてくるのか、少なくともいつから変わったのかということは常に考えなくてはいけません。
話しは戻りますが、この女川町、壊滅的な被害の割には人的被害が少なかったといえます。これは、いざというときの心構えと助け合いの精神が行き届いていたことによります。こうした現場の力が日本をよくしていってくれると思いますが、男女共同参画のようにじわじわと進む問題への対処は難しいようです。
さて、経済復興には男女共同参画の推進が不可欠というお話の前に、福岡県における経済の状況についてデータに基づきご紹介したいと思います。
バブル崩壊後、福岡県内の店舗数は減少したかと思われがちですが、実は店舗数は37%も増加しています。これに対し、売上はわずか6%の増加・・・店舗数の増加に伴いコストは増加しますから、そのつけは全部人件費、特に、購買力のある女性の人件費に影響しています。売上があがらないので人件費を下げると、ますます売上は落ちる・・・まさに負のスパイラルです。
こうした状況は福岡だけではなく日本国中どこにでも言えることですが、福岡は他の地域に比べると元気があるといえます。実際に、日本の100万都市の中でバブル期以降、売上が増加しているのは福岡市だけです。その差は一体何なのか・・・それは女性たちの元気の差ではないでしょうか。
最近、さかんに「日本の国際競争力の低下」ということが懸念されていますが、実際のところ、そんなに危機的な状況なのでしょうか。財務省のデータを見ていただくと一目瞭然なのですが、輸出額が、バブル期の41兆円から2010年には64兆円に増加しているように、実は国際競争は危機的どころか、アジア諸国をはじめ、世界の大半の国に対して黒字が大幅に増加しているのです。国内の売上が下がり、人件費を削れば削るほど、輸出競争力が強くなる、つまり国際競争力が強くなるという皮肉な結果を招いています。
問題なのは、「国際競争力」ではなく、国内でモノが売れないということなのです。
所得減少の原因は企業側だけにあるわけではなく、15歳から64歳までの生産年齢人口の大幅な減少が大きな原因です。働いている人の数が減るということは、収入のある人が減少していく、結果、売上が下がっていくということです。逆に65歳以上の割合は大幅に増加しており、福祉・医療現場では、利用客が増えていて、人手不足が深刻です。これを担っているのが、やる気のある女性がつくっているNPOや社会起業された方々です。それなのに、「女は家で座ってろ」と言う頭の固い男性がまだいるのです。労働者人口が減少しているということは、戦前の日本がそうであったように、女性も働く必要があるのですが、たかだか15年前から始まったことなので、みんな気付かないのです。「女性は家」という固定観念は、労働力が豊富だった高度経済成長期のものであるにもかかわらず、あたかも昔からそうであったかのように勘違いしているのです。労働力不足を外国人で補う前に、能力の高い女性をなぜ雇用しないのか疑問です。
働く女性が増えると出生率が下がると勘違いされている方もおられますが、これもデータで見ると、逆なのです。働いている女性の割合が高い地域ほど出生率が高くなっています。また、世界比較でいうと、女性が働いている国ほど1人あたりのGDPが高く、幸福と感じる比率が高いのです。
日本は人件費を切り詰めて、結果的に国際競争力に勝っていると申し上げましたが、スイスをはじめ、スウェーデンやデンマークなどは日本より人件費が高いにもかかわらず日本に対して黒字です。経済活性化のためには、まずはそこに住む人々が豊かな生活をしている必要があると思います。大量生産・低単価の商品を世界中から調達して廉価販売するのではなく、その地域でしか作れない、ハイセンスで、少量生産・高単価の「地域ブランド商品」を作り、その収益で地元民の所得を増やし、豊かな生活をしてもらう。これが実は生き残り策であり、事実それをやっている国は国際競争力にも勝っています。女性の購買力は侮れませんので、女性が社会進出し、女性の所得が増えれば、経済は確実に活性化します。女性がターゲットの分野が多いわけですから、女性が経営者になるなど、積極的に携わることで経済は拡大します。
東日本大震災からの復興、長引く経済の停滞、少子高齢社会の到来による労働力不足など、日本は様々な課題に直面していますが、女性の社会進出が進めば、日本の社会は非常に元気になっていくと思います。そのためには、男性側の意識の改革だけではなく、女性の皆さんにも、ぜひ、腹を据えて表に立ち、批判を堂々と受ける勇気をもっていただきたいと思います。女性が活躍できる「男女共同参画社会」の一日も早い実現が求められています。
【フォーラム2011】