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北九州市ひきこもり地域支援センター「すてっぷ」 センター長 / NPO法人STEP・北九州 理事
「袖すり合うも他生の縁パワーメント」をスローガンに、ひきこもり支援活動を行う「NPO法人STEP・北九州」理事の田中美穂さん。「自分の人生を肯定する作業は、マニュアル通りでなくていい。悪戦苦闘しながらも諦めずに自分を生き抜いていくことが、人生のお仕事なんだと思います」と、ゆっくり言葉を紡ぐように語る。
4人の子育てを通して、PTAや地域と関わってきた田中さん。不登校の問題を意識したのは、次男の友達の不登校がきっかけだった。次男はおっとりしていてマイペース。そんな個性をおもしろいと感じていた田中さんは、集団生活に馴染めない子どもたちのことが気になった。「もし息子が不登校になったら、どう接すればいいのだろうか」。しかし、学校でも地域でも不登校について本音で語り合う場がなく、釈然としない思いが募った。
そんな折、新聞で「学校に行かない子どもを支える会・北九州」の発足を知った。不登校児の親ではない心苦しさはあったが、学びたい意志を伝えると快く受け入れてくれた。
定例会に参加した田中さんは、ついに求めていたものに出会った。「誰もが本音をさらけ出し、愚痴ではなくて、母親たちが子どものために自分の価値観とどう向き合ったらいいのか話している。私が欲しかったのは、こんなふうに安心して語り合える場なんだと思いました」。
自ら世話人を希望し、不登校の支援活動に参加した。いじめ、発達障害、家庭の不和など原因はさまざまだったが、どの子どもも画一的な社会に対する“生きづらさ”を発信していた。障害をわがままだと誤解され、地域の中で孤立している親子とも出会った。田中さんは不登校問題を通して、社会全体の幸せを考えるようになった。
10年以上活動を続けるなかで、不登校のまま学齢期を過ぎてしまう若者が増え、社会との関わり方を考える必要がでてきた。「学校に行かない子どもを支える会・北九州」は2006年に解散、2007年に「STEP・北九州」として再スタートした。不登校からひきこもりに活動の重点をシフトし、当事者への支援をより深めていった。
2009年にはNPO法人化し、北九州市からひきこもり地域支援センターの運営を受託。事業の依頼があったとき、田中さんは支援活動に参加している若者に相談をした。「行政の事業を担うことは、そこに所属している自分たちの支えになる」と言われ、社会の中で役割を持つ大切さを実感し、センター長を引き受ける決心がついた。
センターでは当事者や保護者からの相談に応じたり、当事者の対人関係の練習や保護者との意見交換も行っている。そして、それぞれの得意分野を生かした社会参加を促すために、専門機関の紹介や職業体験の調整も行っている。
さらに、地域の人と若者の縁をつなぐ「縁が輪ネットワーク」を立ち上げた。お寺でいろいろな人と交流する「フリースペースCafe☆Tera」、みんなで楽しく歌う「やわらかコーラス(合唱部)」、自由に意見交換をする「縁が輪会議」などユニークな活動を展開している。
「実はうちの子たちも、不登校になったんですよ」と、さらりと話す田中さん。いろいろなケースを知っていたため、慌てることはなかった。次男は高校、三男は中学のときに学校へ行かなくなり、他の道を自ら選んだ。「意味のない体験なんてないし、親も本人も人生を根底から否定する必要なんてないんですよ」。
深い思いと豊富な経験から語られる田中さんの言葉は、あたたかく心に響く。自分の原点に帰って、ありのままに生きる勇気を呼び覚ましてくれる。 (2014年9月取材)
一番の楽しみは孫と遊ぶこと。子どもと一緒に戯れていると、すべて忘れて無心になれる。「子どもが好きなんですよ。小さい子を見ると目尻が下がりっぱなしです」。田中さんには0歳から3歳まで5人の孫がいる。高校で不登校になった次男は3児の父になった。「ひきこもり支援も、子どもと向き合いたくて始めたこと。自分のこだわりを追求した結果です」と優しい笑顔で話す。
福岡市出身。北九州市在住。子育て経験を通して不登校問題を考えるようになり、1991年「学校に行かない子どもを支える会・北九州」に加入。2007年「STEP・北九州」をスタート。2009年北九州市ひきこもり地域支援センター「すてっぷ」センター長に就任。ひきこもり支援コーディネーター、「NPO法人STEP・北九州」理事などを務める。2010年内閣府の「女性のチャレンジ賞特別部門」受賞。
キーワード
【た】 【NPO・ボランティア】 【子育て支援】