森嶋孝子（もりしまたかこ）さん（2014年5月取材）

株式会社筑邦銀行　営業統括部　主任調査役　（取材時：国道通支店　支店長）

地元発祥の銀行で築かれた信頼の絆を女性らしい心遣いで継承していく

女性初の支店長として

　福岡県南部に位置する久留米市は商業のまちだ。戦後、復興に苦戦していた地元企業のために久留米市の商工会議所等が中心となり「筑邦銀行」が設立された。2012年に初の女性支店長となった森嶋さんは、勤続38年のキャリアを持つ。仕事と家庭の両立、業務を任される不安と葛藤、女性管理職の難しさに苦しむことはあったが「仕事を続けて良かった」と語る。
　銀行は一般的に男性が中心の業界といわれ、女性管理職の占める割合も少ない。入行したのは男女雇用機会均等法が施行される10年前の1976年だ。多くの女性が結婚退職していた時代、育児休暇中に「退職はいつでもできる。頑張ってみては」という上司の言葉に背中を押されたという。「悩みを聞いてくれる夫や乳児の息子の世話を引き受けてくれた母、難しい取引先へ同行してくださった先輩のアドバイスなど周囲の助けに感謝しています」。年間約20名の女性行員が育児休暇を取るようになった今、孫を世話する立場となった森嶋さんは当時を懐かしく振り返る。　

仕事と家庭、どちらも大事だから

　様々な家電が普及し、育児に協力的な男性が増えた現代。とはいえ、仕事と家事を頑張る女性の根本にある悩みや苦労は普遍的だろう。「一緒に働いているから彼女たちの大変さはヒシヒシと伝わります。だからこそ応援したいし、管理職のわたしがフォローしなければ」。責任ある業務に就く度に「わたしにできるのだろうか」と不安や重圧を感じたが、先輩や上司に積極的に相談し、お客さまの話に真摯に耳を傾けることで前進できたという。「人と人の絆は“このひとなら信頼できる”と思えた時点から育つのではないでしょうか。楽観的でしょうが、真面目で誠実に頑張っている姿は誰かが見てくれている、と信じています」。苦しい時でも地道な努力を怠らない森嶋さんの姿が目に浮かぶ。
　しかし、「常に仕事に100％、家庭でも100％出し切るなんてとても身が持たない。“ゆとり”や“余力“を残すことは長く続ける上で必要です」とアドバイスする。正確さ・確実さが求められる職種ゆえに、厳しい言葉をかける場合もあるが、「男性・女性の性別は関係ありませんよ」と、茶目っ気たっぷりに微笑んだ。

仕事を続けたから受け取れた、ご褒美のコトバ

　「お客さまと積極的に対話し、最新の情報はいつでも提供できるよう知識を蓄えておくこと。前もって段取りをつけておくことは、仕事に携わる中で先輩から学び、経験を積み重ねて自然と身についてきたのかもしれないですね」と、分析する。銀行は命の次といっても過言ではない大切なお金を扱う場所。だからこそ、緊張やプレッシャーも大きいが、それらに匹敵する以上のやりがいや達成感、喜びをお客さまから頂ける仕事だという。
　「やっと家のローンを払い終わったよ。ありがとう！」。スーパーで買い物をしている森嶋さんを見かけ、わざわざ声をかけに来たお客さまの行為に胸が一杯になったというエピソードを語りながら、「笑顔と安堵の表情が印象的で・・・。これまでの苦労が報われたようでした。長い間同じ職場にいたからこそ頂戴することができた“ご褒美”かもしれませんね」と、感慨深げにつぶやいた。

さりげない気配りは素敵なこと

　職場において性別に対するこだわりは特になかったという。「それは同じ職場で働く仲間だと思っているからです。男女に関わらず業務を全うするのは当然ですが、花瓶の水を替える、床に落ちている紙屑をそっと片づけるなどの細やかな気遣いも、必要だと思います。それぞれが持つ美点を大切にし、大いに活用して欲しい。そして、今まで経験のない仕事にもぜひトライを！『あの時やってみて良かった』と思える日がくると思います」。重責と期待を担いながらも肩ひじを張らず、しなやかな感性を大切にする森嶋さん。客や仲間から寄せられる信頼にこれからも応えていくだろう。
（2014年5月取材）