【ロールモデル】
ロールモデルとは
株式会社北九州シティFM代表取締役 /株式会社コミュニティメディアパートナーズ福岡専務取締役
北九州にあるコミュニティ放送局の代表取締役を務めている熊谷さん。コミュニティ放送局は、2002年から始まった国の免許で、市区町村内の一部の地域において、地域に密着した情報を提供するものだ。これまで7局もの立ち上げにかかわり、経歴からは、「広告業界の最前線で活躍してきた女性経営者」といったイメージを受ける。言葉の端々から、凜とした強さの中にしなやかな生き方が見えた。
活字が大好きで、絵も得意。漫画家を夢見ていた少女だったという。美術短大卒業後、一般企業に就職。最初の仕事は秘書だったが、社内報の制作をさせてほしいと広報部への異動を願い出た。念願の仕事に就いたが、広告会社や印刷会社の社員達と接するうちに、「もっと専門的にやってみたい」と1年で退社し、広告の世界に身を投じた。
その後、「様々な情報を自分なりに整理して新しい形にして出す、好みの幕の内弁当を作るような」広告の楽しさに魅せられて、デザインからコピーワーク、企画に編集、プロデュースに至るまで広告のあらゆるノウハウを着実に身につけていった。
1992年、マーケティングと制作を行う会社を仕事仲間と共に立ち上げ、取締役に就任した。
2001年、山口県で開催された博覧会「山口きらら博」で、イベントFM放送局の運営業務を受託した。「格好いいものばかりが良いわけじゃない。下手でも面白味が伝わればいい」。方言混じりの生放送は大好評を博した。それは、後に開局した宇部市のコミュニティ放送局「FMきらら」の原型にもなった。以降、熊谷さんはコミュニティFM放送局の仕掛け人として、各地で開局の仕事に携わることになる。
そんな熊谷さんが、開局準備を手伝っていた「FM KITAQ」運営会社の社長職を打診された。当初はとまどいもあったという。「一貫して制作畑の人間なので、営業や人事などは自分の仕事じゃない、という不安がありました」。けれども、所属や肩書きにこだわらない自分は、コミュニティ放送局に向いているのではないか、と思い直して承諾。トップダウンではなくフラットな組織を掲げた。
気心が知れた少人数のスタッフで進める制作と社長の仕事は正反対で、想像以上に大変だった。地域密着のコミュニティ放送局ゆえ、学生や主婦、会社経営者など、あらゆる人と関わりながら企画を練り、個性豊かなスタッフ達をまとめ、導かなければならない。そんな中、「きついのは自分だけではない。社長の自分ががんばるしかない」と人見知りな性格も克服し、モノの見方を変えることや人の力を借りることも学んだと、当時を振り返る。
「社長の仕事は、まずお金を稼ぐ仕組みを作ること。次にスタッフを育てること」。母親のような気持ちで愛情を込め、時には厳しく指導する。「指示されてするのではなく、自らが考え動いてこそ、やり甲斐を実感するし、同時に収入にも繋がる。それが幸せを感じる図式だと思うんです」。
2012年からは、新しく開局した「コミュニティラジオ天神(愛称:コミてん)」の専務も兼ね、北九州と福岡、各エリアの地域性やリスナー層に応じた番組作りを心がける。
災害時の情報発信やインターネットで聞くラジオの登場など、コミュニティ放送局に期待される役割も可能性も、大きく広がる。「放送局の本来の役目は、人を情報で繋ぐことです。この場を軸に、新しい動きが生まれるといいですね」。
これからは、次世代を応援する立場になりたい、と語る熊谷さん。彼女の輝きは、後進の道を明るく照らしてくれるだろう。
(2013年12月取材)
ハードワークが続き、読みかけの本と一緒に寝る毎日。最近心身を鍛えようと決意し、合気道道場へ入門した。「動く禅」とも呼ばれる合気道には勝ち負けはなく、精神の鍛錬が主目的。「己に克つ心を身につけたい」と期待する。
*写真は、FM KITAQのキャラクターであるQちゃん
朝倉市(旧甘木市)出身。編集事務所や広告会社等を経て、1992年、仲間とマーケティング&制作会社を設立し取締役就任。コミュティFM放送局7局の設立・運営支援に携わり、2004年(株)北九州シティFM(局名:FM KITAQ)代表取締役就任。2012年から「コミュニティラジオ天神(愛称:コミてん)」の専務も兼ねる。北九州と福岡を行き来しながら、地域に根ざした放送局の発展に奮闘中。
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