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神坂 登世子(かみさかとよこ)さん (2013年11月取材)

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国際医療福祉大学福岡看護学部大学院教授、 福岡県看護協会前会長

自分なりの付加価値をつけることが突破口に

 「今、日本の成人女性の約20人にひとりは看護職に就いているんですよ。少子高齢化が進行する中、看護の果たす役割はますます重要になるでしょう。看護の質を上げることが、社会全体をよくすることにつながるんです」。明るく包み込むような笑顔で話す神坂登世子さんは、看護師として人生を歩み、総合病院の副院長、福岡県看護協会の会長を経て、大学院の教授に就任したばかり。神坂さんの口から語られる仕事観は、看護だけでなく、どんな仕事にも活かせる哲学に満ちていた。

役割を引き受けることで成長してきた

 朝倉市生まれの神坂さんは「女性が職業を持つなら教員か看護師という時代で、看護師を選んだ」という。福岡で3年学んで看護師になり、初の就職先として選んだのは東京にある国家公務員共済組合虎の門病院だった。「若いうちに外に出てみたいと思ったの。そこは“家族が病気になったときに看てもらいたい病院”をコンセプトに、患者とその家族に寄り添う医療を目指していました。医師と看護師が共に学び育つ環境で、英文を翻訳して抄読会をしたり、休日は歌声喫茶やスキーなどで青春を謳歌していましたね」と振り返る。初めて医師とふたりきりで患者の死を看取ったときのことは、今でも忘れられない。「人の命の重みをひしひしと感じ、体が震えました」。
 5年後、福岡の浜の町病院へ。内科や外科を経て、看護部長、副院長まで経験し、42年を過ごした。看護師が副院長に就任するのは異例のこと。理由を尋ねると「与えられた役割をしっかり遂行してきたから、評価してくださったのだと思う」という。例えば、2病棟を兼務したり、若い主任と組んで仕事をするなど、院内初の試みに挑戦してきた。何か打診されたら、断らないのが神坂さんのモットーだ。「私に話がくるまで、いろんな経過があり、期待してくれる人がいるのだから。役割をいただくことで足りない点を認識し、役割に見合う人間になろうと一生懸命にやってきた。人から成長させてもらいましたね」としみじみと語る。

高齢化社会において看護の活躍の場は広がる

 2008年、福岡県看護協会の会長に就任。福岡で日本看護サミットを開催しようと提案し、実行委員長を務めた。行政、教育、臨床などが一体となるシンポジウムには5500人以上が集まり政策提言を行い、成功に導いた。2013年には、国際医療福祉大学大学院の教授に。「管理職時代に実感したのは、何より人の教育が大切だということ。今は働きながら学べる環境が整っています。学ぶことは自分だけでなくスタッフや患者さんのためになり、発展性がありますね」。
そんな神坂さんが考える看護とは。「看護師はチーム医療のコーディネーター。患者や家族に一番近い存在としてニーズや変化をしっかり察知し、対応し、必要なら医師や他の専門家につなぐのが大きな役割だと思います。病院は患者のために専門家が集まる場所」と言い切る。現在は男性の看護師も増え、約6%を占める。「男性の患者は男性看護師のほうが話しやすいという声もあります。男女幅広い年代の看護師がいると、いろんなニーズに応えられる。そんな柔軟な社会になるのが理想ですね。看護は新時代へ動き出しました。学べる場が増え、資格制度が充実して、訪問看護ステーションの経営者にもなれるんです。高齢化社会において、活躍の場は病院から地域まで広がっています。だからこそ、看護の質を上げることで、世の中に貢献できる。一方で、看護師が働き続けられる環境づくりも大切です」と力を込める。

頑張る姿は誰かが見ていてくれる

 長年の看護業務功労により、2013年秋の叙勲で瑞宝双光章を授与された。「どんな仕事でも“つつがなく”では不十分。自分の役割に全力を注ぎ、もっとやれることはないかと考え、自分なりの付加価値をつけることが突破口になります。上ばかり見すぎず、まずは足元を固めて。頑張る姿は誰かが見ていてくれる。そしてチャンスがきたら引き受け、一生懸命取り組むことで、さらなる役割を与えられるんですよ」。どんな道のりも足元の一歩から。神坂さんの言葉は、私たちに勇気をくれる。 

 (2013年11月取材)

コラム

私の大切な時間

「実家が神社ということもあり、学生時代から詩吟や華道をたしなんでいました。でも、仕事が忙しくなってから、やめてしまったんです」という。そこでつい最近、シャンソンを習い始めたそうだ。「人生観を歌い上げるシャンソンに憧れがあって。身近なメロディも多いんですよ。楽しみながらやっていきたい」。

プロフィール

朝倉市杷木町出身。国立福岡中央病院(現・九州医療センター)付属看護学校で学び、東京の虎の門病院に看護師として就職。5年後、浜の町病院へ転勤、内科や外科、看護部長、副院長として2011年まで勤務。2008年から2013年6月まで、福岡県看護協会の会長を務める。2013年7月から国際医療福祉大学福岡看護学部大学院教授に。長年の看護業務功労により、2013年秋の叙勲で瑞宝双光章を受章。2013年12月には、福岡県看護協会での6年間をまとめた本『看護新時代』を出版。

 

 

 

 


 

 

 

 

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