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中川 久美(なかがわくみ)さん (2012年10月取材)

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九州旅客鉄道株式会社 旅行事業本部商品事業課 副課長 (取材時:戸畑駅駅長)

自分なりの「駅長」像を描きながら

 JR九州史上3人目の女性駅長として、戸畑駅に勤務する中川久美さん。駅長室に飾られた木製ボードには、戸畑駅が開業した1902(明治35)年から歴代の駅長のフルネームがズラリと刻まれている。最後の「中川久美」は、唯一の女性名だ。管理者クラスを意味するダブルの制服に身を包み、「自分が駅長になるなんて、想像したこともありませんでした」と控えめなトーンで穏やかに語る。

いろいろな部署で経験を積み上げる

 福岡の高校を卒業後、憧れていたアメリカへ進学。父親が国鉄職員だったため、「小さなころから身近に感じていた」JR九州に入社した。同社は、女性の総合職採用を1989(平成元)年に開始。7期目となる中川さんの同期は、8人が女性だった。まずは折尾駅に配属され、駅の業務全般を学んだ。「女性用の更衣室がなかったので、倉庫にロッカーを持ち込んで更衣室にしました。改札に立ち、お客さん一人ひとりから切符を受け取っていると、『女性は珍しいね』と声をかけられることもありました」。翌年は「お客様の声」に対応するサービス課へ。電話の相手に「若い女性では話にならない。ほかの人に代わって」といわれても、「私が会社の代表です」と粘った。
 入社4年目、念願だった旅行事業本部への異動がかなう。「以前から旅行業務に関する勉強を続けていたので、うれしかったですね」。主にシニア向けのツアー企画を担当。添乗員の資格を取り、自ら企画したツアーに添乗員として同行。お客様が「楽しかった」と喜ばれる姿にやりがいを感じていた。
 一方で、企画側だった中川さんは、旅行商品を販売する現場側との擦れ違いに悩んだことも。すると上司の計らいで、あえて旅行販売窓口のリーダー役を任された。「何かと苦労しましたが、同僚に助けられ、現場を知ったことで視野が広がりました」と振り返る。

みなさんをバックアップしていきたい

 入社16年目の春、会社から1本の電話がかかる。「戸畑駅の駅長に」という辞令だった。「本当に驚きましたよ。駅長になると頭でわかっても、具体的なことが描けず、不安が先立って…」。それでも、1週間後に着任。朝7時すぎから改札に立ち、通勤通学のお客様へのあいさつからスタートした。「行ってらっしゃい」「走らないでね」と声をかける学生たちに重なるのは、遠い日の自分。実は中川さん、JR(当時は国鉄)の列車を利用して、戸畑駅から中学校に通っていた。ここは思い出がつまった駅なのだ。
 1年目は日々の業務をこなすことで精一杯だったが、2年目から気持ちに余裕もでてきた。駅長としての仕事は「日々の売上や職場の管理業務が主で、あとは本人の裁量に任されている部分が大きい」という。地域へのPR活動に力を入れる駅長もいれば、内部の組織づくりを重視するタイプの駅長もいる。中川さんは「全社員が自分のことだけでなく、ほかの人のことも広く理解できるような体制を作りたい」と意欲をみせる。「私の役割は、みなさんが仕事をしやすいように裏方としてバックアップすること」と話す中川さんには、駅長として心がけていることが2つある。ひとつは「いいたいことがあっても、一度はのみ込みます。『自分が自分が』ではなく、まずは経験のある方々の話に耳を傾ける。その上で状況とタイミングをしっかり見極めて、自分の想いを伝えるようにしています」。もうひとつは「自分が口に出したことや決めたことに責任を持つ。私がぶれてしまうと、周囲が翻弄されてしまいますから」。

自分の環境は自分自身で作るもの

 JR九州の直営駅は、全部で79駅。駅長の集まりでは紅一点だが、「社内で女性だからと区別された記憶は一度もない」という。「会社には尊敬できる人が多く、愚痴をこぼせる駅長さんや悩みを相談できる先輩や後輩も。グループ会社の社長をはじめ、家庭と仕事を両立する素敵な女性もいらっしゃるので、励みになりますね」と笑顔がこぼれる。今は独身の中川さんに「結婚しても出産しても、仕事を続けられる環境ですか?」と問うと、「自分でそうできる環境にします」ときっぱり。「私、頑固者ですから」と芯の強さをのぞかせた。
 戸畑駅の同僚は、中川さんをこう評する。「物腰が柔らかい」「仕事がさばける」「トイレ掃除や洗い物まで率先してやってくれて、気配りが素晴らしい」。情熱を内に秘め、謙虚に、一歩ずつ。誰のマネでもない自分らしいスタイルで、中川さんは歩み続ける。

                                 (2012年10月取材)

コラム

わたしの大切な時間

 平日は朝5時ごろに起床している中川さん。週末は家でゆっくり掃除や洗濯をするのがリフレッシュになるという。「カーテンまで洗濯したり、モノを捨てたりすると、すっきりします」。「お料理も好きですか?」と尋ねると、慌てて口を手でおさえ、首を左右に振る仕草を…こんなチャーミングな人柄で、まわりの人に愛されているのだろう。

プロフィール

 直方市出身。高校卒業後、アメリカのペンシルベニアにある州立大学に進学。社会学を専攻して卒業。1995年、九州旅客鉄道株式会社に入社。折尾駅勤務を経て、サービス課へ配属。99年に旅行事業本部へ移り、主に旅行企画や窓口業務を担当。2009年「九州観光推進機構」に出向後、2011年から戸畑駅長を務める。2014年4月、旅行事業本部商品事業課副課長に就任。

 

 

 

 


 

 

 

 

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