ロールモデル
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講師情報
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福岡大学 非常勤講師
「大学院で西洋史学を専攻していたので、“これしかできない”と思っていた」と語る富永さんが進もうとしたのは研究者の道。しかし、「当時は『子どもを保育園に預けてまで、お母さんが働かなくていい』と言われていた時代。保育園への入園申請も、働いていないことを理由に断られ続けた」と言う富永さんは、子どもの小学校入学を機に、福岡工業短期大学へ講師として就職。短大では、西洋史とロシア史を教えたのだが、このことが、富永さんと女性学を結び付けるきっかけになった。
「当時、ソビエトは男女平等・男女同権と言われていたが、調査してみると、女性の方が男性より弱い立場にあることが分かった」と言う。この調査を機に、本格的に女性史にかかわるようになり、今日では、元々の専門である西洋史学から見た女性問題や女性史についての研究、西洋と日本の女性の比較研究を行っている。
これらの研究を通じ、女性の人権についても考えるようになった富永さんだが、男女共同参画社会の実現について、「今は多くの女性が働いており、様々な分野に女性の意見が反映されるはずなのに、法律や施策は未だに男性が中心となって考えている。それでは現場のニーズに見合ったシステムの構築は難しい」と、取り組みの遅れを指摘する。
その一例として、「防災会議」の委員について、国や県、市町村、どこでも女性委員の割合が極端に低い点を挙げ、「男性ばかりで会議をしても、トイレや着替えるスペース、子どものミルクなど、災害時に女性が直面する問題に気が付かない。阪神・淡路大震災を受け議論されたにもかかわらず、今回の東日本大震災でも活かされていなかった」と訴える。
「男女の差で差別や偏見をしてはならないが、性別にとらわれないという事は難しい。だからこそ、男女それぞれで異なる経験を活かして、共に暮らしやすい社会にせねばならない」と語る。
そんな富永さんは、自身の経験を踏まえ、女性にアドバイスを送りたいと言う。それは「仕事に就いたらとにかく辞めるな」ということだ。「結婚・出産をしても働き続けて欲しい。キャリアを積むべきときに積んでおかないと、後からなかなか取り戻せない。自分は、一番キャリアを積むべきときに働けなかったので苦しんだし、一緒に働いていた女性研究者の中には、ブランクを出さないために『子どもを産まない』という選択をした人もいた。今は、当時よりは法律や制度も充実しているので、積極的に利用して、仕事も生活も大事にしてほしい」と語る。
一方の男性については、「『あすばるフォーラム』の子育てに関するシンポジウムに呼ばれた際、若い男性が多く参加していて、若い男性の間で育児への関心が高まっていると感じた。問題は、中高年の男性が、『生活の自立』をできていないこと。夫が退職して家にいる時間が増え、一緒にいる妻がうつになるケースが増えている。『女性の経済的自立』と共に『男性の生活の自立』が強く求められる」と言う。
(2011年4月取材)
このシリーズとの出会いは、研究のために富永さんがベルギーに行った際、「我が唯一の望みに」に一目惚れし購入したことがきっかけだ。購入当時はシリーズである事も、寓意があることも知らなかったが、友人に教えてもらってから集め始めた。今では、教え子たちが家に見に来るという。「あとは“聴覚”だけなので、またベルギーで探してみたい」と語る。
※貴婦人と一角獣
15世紀末のフランドルで織られたとみられる6枚の連作タペストリー。現在はフランスの「クリュニー中世美術館」に所蔵されている。その内5枚は「視覚」、「味覚」、「聴覚」、「嗅覚」、「触覚」を示しており、もう1枚が「我が唯一の望みに」である。「我が唯一の望みに」の持つ意味については、今も謎に包まれており、解釈が分かれている。
福岡市出身。1975(昭和50)年に九州大学大学院文学研究科を修了。1984(昭和59)年に福岡工業短期大学で講師となって以降、数々の大学で講師を勤める。現在は、西洋史学・女性学を専門に、福岡大学、西南学院大学、久留米大学大学院など、6つの大学・大学院で教鞭を振るう。
また、2000(平成12)年にはディスタンスラーニング(遠隔学習、遠隔教育とも言われる。通信回線やコンピュータなどを用いて、大学に行かず、遠隔地で教育機関の講義を受講するシステム)により、グリニッジ大学で「女性学」博士号を取得。
著書に「家事・育児を分担する男たち」(現代書館 共著)、「ジェンダーの西洋史」(法律文化社 共著)など多数。
市民グループ「ゼミナールFUKUOKA21ジェンダー研究会」の顧問の他、「久留米市男女平等政策審議会」委員、「『福岡市男女共同参画を推進する条例』をくらしに活かす市民の会」代表などを務める。
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【た】 【働く・キャリアアップ】 【研究・専門職】