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レイナ株式会社 代表取締役
黒や茶色の重厚な毛皮のイメージを一新させる、軽やかで色鮮やかな高級ファーブランド「ロイヤル チエ」。斬新な発想と確かな技術力で、国内外から高い評価を受けているそのデザイナーが、今井千恵さんだ。
アメリカで財をなした祖父の下、幼い頃から海外の“本物”に触れて育ち、洗練された感性を身につけた今井さんは、客室乗務員として活躍後、女性4人でファッション雑貨の輸入販売会社を設立。趣味が高じての起業だったが、間もなく自らファーのデザインと製作に着手する。熟練の技術を持つフィンランドの小さな工場と提携し、当時の常識を覆す「日常的に着られる、色彩豊かでモダンなファー」の実現を目指したのだ。
「ヨーロッパの職人は自分たちの作るものに誇りを持っていて、なかなかこちらの要望を聞いてくれない。でも経営者が若く、何でもやってみようという研究心が旺盛で、非常に協力的でした。ここまで来られたのは、パートナーに恵まれたおかげです」。こうして誕生した「モザイク ドゥ チエ」は、今に続く「ロイヤル チエ」の代表作となった。
販売の経験も、専門的なデザインの知識や技術もなく、趣味の延長のような形で会社を起こした今井さん。本気でビジネスに取り組もうと決意したきっかけは、子どもたちの存在だった。
「娘が2、3歳の頃、いったん帰宅した後で急な来客があり、食事の準備もせず店に出たことがありました。用事が終わって帰ってみると、娘が椅子に載って流し台の前に立って、何も入っていないお釜に手を突っ込んで寝ていたんです。その姿を見た時、これはもう辞めるか一流になるか、どちらかだと思いました。子どもたちにこれだけ犠牲を払わせるのであれば、絶対に成功しないと申し訳ない。その時に真の起業家精神が湧いたような気がします」。
その愛娘は今や関連会社の社長に就任し、経営と広報の面から母を支える右腕に。“次世代への継承”を今後の大きな課題と考える今井さんにとって、頼もしい2代目へと成長してくれたようだ。「創業者と違って苦労していないから、人一倍汗を流してコツコツ取り組む精神を養ってほしい」と期待を寄せている。
国内外を精力的に飛び回り、数多くの女性起業家やハイソサエティとの交流も多い今井さんに、海外での成功の秘訣を尋ねた。
「日本の“物言わぬ文化”は素晴らしいものですが、海外では相手にはっきり意思が通じるように話す文化に従うこと。その国の習慣や国風を理解して、周りの人と喧嘩せずに上手くやっていくこと。でも、日本の文化の素晴らしさを伝えることも大切だと思っています」。
その一例が、博多織とファーを組み合わせた作品だ。初めてニューヨークに進出した1999年(平成11年)当時、深刻な低迷期にあった博多織を盛り立てたいと取り入れて以来、毎年必ず発表している。そして2010年(平成22年)には、鹿児島出身の今井さんならではのアイデアで“香水のように香る焼酎”を開発。ファッションと酒という業界初のコラボレーションは早くも注目の的だ。何も知らなくても、発想力と志さえあればできる――その信念で生み出される作品たちから、今後も目が離せない。
(2011年3月取材)
今井さんの愛犬、トイプードルのレオとダックスフンドのトワ。本来の飼い主は娘の千晶さんだが、現在は今井さんの下で暮らしている“グランマ”大好きな2匹だ。「毎朝一緒に大濠公園を散歩して、その後ささみやカボチャ、雑穀、キャベツ、ニンジンなどでご飯を作って食べさせています。私自身の食事より優先なの」と目を細める今井さん。「散歩の時間になるとソワソワして顔をなめに来るから、早起きして行かざるを得ないですね。でも健康のためには、この子たちがいてくれてよかった」。
鹿児島県出身。客室乗務員勤務を経て1977年(昭和52年)、レイナ貿易株式会社を設立。1993年(平成5年)、ファーデザイナーとしてオリジナルブランド「ロイヤル チエ」を発表。1999年(平成11年)のニューヨーク進出時には、その芸術性と独創性によりニューヨーク市とアジア・アメリカ顧問協議会から表彰を受ける。2002年(平成14年)、「世界女性起業家40人」に選出され、アントレプレナー賞を受賞。2005年(平成17年)、第4回福岡県男女共同参画表彰(県民賞)受賞。2010年(平成22年)には、故郷・鹿児島の濱田酒造と共同開発した女性向けの本格焼酎「MORRIS(モーリス)」を発売。東京、福岡、愛媛、鹿児島に6店舗を構え、2011年(平成23年)には上海へ出店。
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