【ロールモデル】
ロールモデルとは
NPO法人福岡ジェンダー研究所 理事、こどもCAPふくおか 代表
「なぜ、民主主義の世の中なのに、女性が社会に出て行かないのか?」と、倉富さんは大学在学中からずっと疑問に思っていた。この疑問を解決しようと、久留米大学大学院では、戦前と戦後の社会を経験した女性に聞き取り調査を行った。その結果、「時代が変わっても、男尊女卑の考えは変わらない女性が多かった。これが、女性の社会進出を阻み、結果として主婦のストレスとなった」と考えるようになった。
ただし、「社会学として社会的背景には関心があったが、ジェンダーやフェミニズムを研究テーマとしていたのではありませんでした。あすばるに調査研究員として職を得たときも、新しい言葉であった『男女共同参画』について詳しくは知りませんでした」と言う。
そのため、高い意識を持って働き出したとは言えなかったが、気持ちが大きく変わったのは、男女共同参画の流れを押しとどめようとする動きが起こったときだ。「地道に活動する人たちにたくさん出会ってきて、それを無駄にするわけにはいかない、男女共同参画に真剣に取り組まなければと考えるようになりました。そして、みんなで動くことで変わり始めた人や町を見たら、やりがいも感じました」と語る。
倉富さんはあすばるを退職した年に、知人に誘われて「NPO法人福岡ジェンダー研究所」の設立に携わることになった。
始めはNPO法人の中心メンバーになるつもりではなかった。「以前から、大学で起こるセクハラは根絶されなければと考えていたので、それにつながる動きになる研究所の設立は嬉しく思いました。それで、お手伝いできることがあればという気持ちで参加しました」。しかし、「とりあえず」と引き受けた事務局の仕事が、現在は生活の中心となっている。
今では、自治体や企業から依頼される男女共同参画についての調査や研修を行うと共に、研究所の運営にも関与している。「これまで無縁と思っていた組織の経営や事業計画についても考えるようになりました。また、自分が『男女共同参画って何?』から始まったので、同じように男女共同参画についてさほど関心を持っていない人たちに、どうすれば興味を持ってもらえるか考えながら活動しています」と語る。
「受身でやってきたことが多い」と語る倉富さんが、自分から動いたと自負するのが、福岡でのCAPの活動だ。CAPとは、子どもたちに自身の人権について考えてもらう中で、いじめや虐待、性犯罪などのあらゆる暴力から自分自身を守るための知識やスキルを学んでもらうワークショップである。
倉富さんは1990年代にセクハラ問題の勉強会に参加し、そこでCAPと出会った。「息子が通う保育園で、絶対にワークショップをやりたいと思いました。そのときは、福岡にCAPをできるグループがなかったので、熊本からグループを呼びました」。当地で初めてCAPを実施したことで、保育園にはその後も取材や問い合わせが相次いだ。これをきっかけに、保護者仲間で、「ふくおかCAP(現こどもCAPふくおか)」が設立された。
「環境が整えば、子どもは本来持っている力を発揮します。子どもが、自分を守る力があることを信じる一助になりたい」と倉富さんは語る。また、CAPは大人を対象としたプログラムもある。受講した保護者や教師からの「受けると人生が変わる」「自分も子どもの頃に受けたかった」という言葉が、さらに勇気となるのである。
(2011年3月取材)
倉富さんのお気に入りの言葉は「平和上等」と「恒久平和」である。前者はロッカーの忌野清志郎氏がイラストに添えた言葉で、後者は裏千家第15代家元である千玄室氏がテレビで語った言葉である。「人と人との間で問題が起きても、『暴力でなく話し合いで解決できる』と、大人は子どもにおしえているはず。なぜ、こんな当たり前のことが、国同士ではできないのか。戦争のない社会は必ず実現すると信じている」と倉富さんは語る。
北九州市出身。九州大学卒業後、出版社や法律事務所に勤めるが出産を機に退職。再就職を見据え、キャリアアップのため久留米大学大学院で社会学と心理学を学ぶ。1999(平成11)年から2002(平成14)年まで、福岡県男女共同参画センター「あすばる」に調査研究員として勤める。
あすばるを退職した2002(平成14)年、NPO法人「福岡ジェンダー研究所」の設立に携わり理事に就任。また、同年、民間団体「こどもCAPふくおか」の代表に就任。
加えて、福岡教育大学、福岡県立大学、九州産業大学、九州医療センター付属福岡看護助産学校で非常勤講師として社会学やジェンダー論を教えるかたわら、様々な市や町の男女共同参画審議会委員などを勤めるなど、多忙な日々を送る。
キーワード
【か】 【NPO・ボランティア】 【研究・専門職】