福岡大学の教室で教壇に立ったNPOひとり親支援ネットワークふしぼしねっと代表理事 宮原礼智 さんは、実はここの学生になりたかったが叶わなかったこと、その学生たちに今日こうして講義することは感無量だと笑顔で語りかけました。
父子家庭と母子家庭をネットワークするものとして立上げた『NPOひとり親支援ネットワーク ふしぼしねっと』、父親の子育てを応援する『ファザーリングジャパン九州』の理事(25年まで)、新聞・ネット上などでのコラム執筆、エバーノート(クラウドのアプリケーション)の日本初のアンバサダー、パパ絵本伝道師など、多様な活動をされています
11年前、小学1年生・4歳・1歳の子を育てるシングルファザーとなりました。支援の相談のため市役所の窓口を訪れ「父子家庭」への支援がないことを初めて知り、ブログにそのことを掲載したところ、全国の父子家庭の父親たちから現状の制度はおかしいという声が多く寄せられ、宮原さんは仲間を募り署名を集め、国会陳情へと行動を起こしました。マスコミの後押しもあり、ついに父子家庭支援を含む法律改正を実現させました。
イクメンの反対語は?と問いかけに、学生は頭をひねりましたが、答えは「育児なし(いくじなし)」という語呂合わせでした。11年前までは「育児なし」だったという宮原さんは「男は仕事、女性は家庭」と考えていました。一人で子育てを担っていた妻は専業主婦に疲れ、勤務を始めたが、子どもを残して突然家を出て行ってしまいました。
宮原さんはその日のうちに会社を辞め、子どもの世話に戸惑うことばかりでしたが、どうせなら楽しくやろうと決めて、おむつを替える時に使う「おしりふき」の使用枚数を減らす工夫をしたり、未経験だった料理もだんだんと上手になっていきました。しかし、家にいるだけの生活に気持ちが沈んでいく日々に、唯一の楽しい外出は子どもの授業参観。そのうち、保護者としてPTAに関わることは避けられなくなり、広報委員長を引き受けた会議の場で、シングルファザーであることを初めてカミングアウト。しかし、それがきっかけで他者との関わりが大きく変わっていくことになります。ママたちが、料理を持ってきてくれたり裁縫を引き受けてくれたりと、助けの手を差し伸べてくれ、ママ友パパ友が増えていったということです。
絵本伝道師を自称する宮原さんが絵本に魅せられたのは、小学校の読み聞かせボランティアに関わりだしてから。子どもたちがげらげらと笑うような面白い絵本を探して、図書館で数百冊の絵本を読むうち、夢中になっていきました。宮原さんはこの日も大学生にいくつかの絵本を読んで下さいました。
宮原さんが、自らの子育てを間違っていなかったと信じる出来事がありました。反抗期真っ只中の高校生の長男が、突然、父親の読み聞かせ活動に同行することを希望し、しかも大勢の人の前で読み聞かせをして、宮原さんは、絵本で子育てした成果だと嬉しくて涙がこぼれたという。
娘のリクエストでキャラ弁にはまったり、ミシンを購入して苦手だった裁縫が大好きになったりと、家事のスキルを上げて行った様子をブログやfacebookで発信し、読者に大好評。
最後に「母性本能についてぜひ伝えたいことがあります」と、自分の経験を語りました。仕事人間で子育てを顧みなかった頃、子どもの具合が悪い時も、夜泣きをしている時も気づかず眠っていた。そのころ夜中ひとりで子どもの世話をしていた妻とはいつも夫婦喧嘩。けれど、シングルになり子どもに関わるようになった今は、夜中、子どもの咳で目が覚める、額を触っただけで体温の変化が正確に分かるまでに変わっていた。母性本能は女性だけのものではなく、母親になった途端に身につくものでもない。子どもの世話をするうちに子どもを守ろうとする思いが生まれてくるものだという。「母親だけで子どもの世話をするのは負担が大きい。男子学生のみなさんは、父親になったらぜひ母親と助け合って子どもを育てて欲しい」と結ばれました。
タイトル | 「男の家事力、育児力」 福岡大学2号館221教室 |
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開催日時 | 2013年11月26日(火) |