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基調講演


「男女共同参画のセカンドステージ ~誰もが安心して暮らせる社会を目指して~」

【 講 師 】袖 井 孝 子 氏
お茶の水女子大学名誉教授
内閣府 男女共同参画会議監視・影響調査専門調査会「生活困難を抱える男女に関する検討会」座長   

「男女共同参画のセカンドステージへ」

 2008年、男女共同参画会議基本問題専門調査会から、「地域における男女共同参画推進の今後のあり方について」という報告書を出しました。2009年は男女共同参画社会基本法が制定されてちょうど10年、男女共同参画という言葉も浸透してきましたが、これまでの取組を検証し、明日に向けたセカンドステージへと一歩前進しようと議論を重ねました。

 この議論の課程では、社会経済が大きく変化する中で、男女共同参画社会づくりに向けた取組が、生活困難を抱える女性たちへの支援に十分に対応できていなかったのではないかという問題が指摘されました。

「この10年間で進んだこと、その背景」

 この10年で、女性たちは啓発から実践活動へと力をつけてきました。地域の草の根活動やNPOの活動などをとおして、子育て、福祉、まちおこし、むらおこしなどの分野で、行政を引っ張っていくまでの実践活動を展開しています。

 また、女性だけの問題から男女の問題へと広がってきました。女性は世間のしがらみや制約からかなり解き放たれてきた一方で、男性は依然として「弱みを見せず、家族を養うべき」というプレッシャーに苛まれています。介護や父子家庭の生活困窮などで苦しんでいる男性も助けを求めてもいいのではないでしょうか。また、仕事の場だけに囲い込まれてしまっている男性の状況を打破することは、まさにセカンドステージの大きな課題でもあります。

 日本における男女共同参画の推進は、国連の動きをはじめとする外的要因を受けた行政主導で図られてきた面があります。他方、国内の要因として大きいのは、少子高齢化の進行です。その対応のため90年代以降、まずは正規雇用女性を対象として、仕事と家庭の両立を図るための施策が展開されました。後に働きすぎの男性を始め、若者、専業主婦にもその対象が拡大され、2007年には、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」も出されました。

 家族の形態や機能も大きく変わりました。3世代世帯が少なくなり、一人暮らしや夫婦のみの世帯が非常に増えてきました。乳幼児や高齢者などを長期にわたってケアするという機能も、家族から外部化するようになりました。加えて、雇用されて働く女性、社会的な発言をする女性も増え、「家族のための自己犠牲から自己実現」へと女性の生き方が変わってきたのです。

「まだまだ女性の参画が少ない政治経済活動」

 日本では政治経済活動への女性の参画は少ないのが現状です。ジェンダー・エンパワーメント指数(※)は世界第57位で、欧米諸国などに比べ、政治家や管理職に占める女性の割合はかなり低い状況にあります。

 ワーク・ライフ・バランスの実現もなかなか進みません。「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という考え方については、全体では賛成する人が減ってきているものの、女性より男性が多く支持し、妻が家事分担の大部分を担っており、固定的性別役割分業の解消は難しい状況にあります。

「セカンドステージの大きな課題=生活困難とは・・・」

 このような中で、セカンドステージにおける大きな課題である生活困難の解消を考えると、まず、ひとり親家庭の経済的貧困が大きな問題です。特に離別した母子家庭は生活が苦しく、老後にまでも厳しい環境が続きます。また、父子家庭の厳しさも忘れてはなりません。更に、経済的貧困と暴力が世代間で連鎖していることも大きな問題です。ヒアリング調査などで、親の貧困と暴力が次の世代にまでにつながっている実態を耳にし、本当に慄然としました。

 ひとり暮らしの高齢者の生活も厳しい状況にあります。特にひとり暮らしの高齢女性の5割が経済的貧困という厚生労働省及び内閣府の調査結果もあります。一方、高齢男性では、生活や地域とのコミュニケーションがうまくできない方が非常に多く、孤立、孤独死が問題となっています。

 また、近年、注目されるのが若者の自立困難です。心の病を抱える若者も少なくありません。若者の未婚者のうち、かなりの割合が正規の職に就けない、結婚もできないという状況です。

「課題解決のために、何が必要か」

 今、さまざまなところで、貧困、格差、子どもの安全、社会保障制度の将来などについての不安が指摘されています。このような不安や危機に対応できるセーフティーネットが必要です。失敗してもやり直しができる社会に、そして、本当の意味で自分の生活は自分で決めることができる社会にしていかなければなりません。

 また、社会的連帯を考え直す必要があります。年金や保険制度などの社会保障も、本来は損得ではなく社会的連帯(助け合い)が基本です。自己中心的な考え方が非常に強くなってきていることを危惧しています。弱者を見捨てない社会、自立が困難な人も救っていける社会にしていくことがとても大切です。

 男女共同参画を進めるうえでも、このような課題にしっかりと目を向けていかねばなりません。私は、そのために世代を超えてみんなで協力していくという『老若男女共同参画社会』を実現しなければならないと考えています。

「そのために、私たちは何をすべきか。」

 経済が安定的に成長していたころは、行政に依存してきた面がありましたが、これからは自ら力を蓄え、実現していくエンパワーメントが大切です。全国各地に自分たちの力で頑張っている人々が確実に増えています。まさにセカンドステージだなと思います。

 次に、一人で抱え込まないで問題の共有化を図ることです。一人でできることには限界があります。連帯し、みんなで力を合わせ、重荷を分かち合えばかなりのことができます。

 情報の収集と活用も重要です。知っていることと知らないことでは大きく違います。行政や地域社会、NPOなどのいろいろなサービスを知り、上手く使いこなすことで困難な状況を乗り越えることも可能です。

 そして、さまざまな課題を社会の問題として、社会に向けて発信していく必要があります。国の第3次男女共同参画基本計画が来年の秋以降に策定される予定ですので、パブリックコメントなどの機会に、皆さんの声を届けていきましょう。

 私たちは、これまで知識や情報を学び、集め、そして分析、咀嚼して自分のものにしてきました。これからは、皆さんと共にこれらを実践に活かしていくセカンドステージへと進んでいきたいと思います。

※女性が政治及び経済活動に参加し、意思決定に参加できるかどうかを測るもの。
具体的には、国会議員に占める女性割合、専門職・技術職に占める女性割合、管理職に占める女性割合などを用いて算出している。





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