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株式会社西部技研 代表取締役社長
古賀市に本社を構える株式会社西部技研は、海外3か国に子会社を置き、世界の産業界まで名を馳せる機器・装置メーカー。同社を率いる3代目社長・隈扶三郎さんは、女性が働きやすい職場づくりにも情熱を注いできた。創立50周年を迎え、新たなスローガン「夢を力に未来を創る」を掲げて100年企業を目指す鍵は「多様性」と語る。
3人兄弟の末っ子として、福岡市で生まれた。父親は九州大学工学部の研究者で、自分が開発したものを世に出したいという思いから、1965年に㈱西部技術研究所(現:西部技研)を設立。いわゆる「大学発ベンチャー」の先駆けで、母親が経理を担っていた。地元の大学に進学した隈さんは、旅行関係の仕事に就きたいと思っていたが、兄2人が家業とは別の道に進んだため、1987年に父の会社へ入社。最初の2年は工場に勤務した。
隈さんが働き始めたのは、ちょうど会社が転機を迎えた数年後。世界で初めてシリカゲルを使った除湿ローター(写真)を開発し、市場を世界へ広げようとしているところだった。海外と直接取引したいという父親の意向で、すでに台湾とスウェーデンには進出しており、隈さんは89年に渡米。大学の語学プログラムで英語を学びつつ、営業担当として米国法人の立ち上げと販路拡大に奔走した。
順調に業績を伸ばす中、97年に父親がガンで急死。二人三脚で会社を支えてきた母・智恵子さんが2代目の社長に就任した。智恵子さんは自ら3人の子を育てながら働いた経験から、女性社員が安心して働き続けられる制度や環境づくりに力を入れた。98年には女性社員活性化規定を制定し、大卒女性の定期採用もスタート。だが、制度は整ったものの、女性は相変わらず結婚や出産で退職してしまう。社内結婚で優秀な女性が辞めるとき、智恵子さんは「なぜ夫ではなく、必ず妻が辞めるのだろう…」とこぼしたこともあるという。
2002年に社長を引き継いだ隈さんも、女性が活躍できる職場づくりを加速させた。その理由は2つあるという。ひとつは、女性の能力を高く評価していたから。「採用に関わっていると、相対的に見て女性の方が優秀。それなのに数年で辞められると会社には大きな痛手で、また一から人を育てるのは経済的なロスもあります」。もうひとつのキーワードは多様性だ。「男性だけのプロジェクトより、男女混合のほうがずっといいものができる。それを実感していたので、女性も男性と同じように採用して長く働いてほしいと願っていたのです」。そこで、女性社員有志による「女性社員キャリアアップ制度」を立ち上げた。指示や命令によらず、先輩社員が後輩の課題や悩みの相談にのるメンター制度や研修などを取り入れた。同時に男性中心の社風も変えようと努め、キャリア育休導入から7年後、ようやく最初の利用者がでた。
「一時期はどうやっても無駄ではないかと虚しくなった」と明かす隈さん。だが、地道な取り組みが実を結び、今では結婚や出産で辞める女性はほぼゼロになった。女性管理職が2人誕生し、女性の職域も開発から営業、マーケティング、工場まで広がった。さらに近年は男性の育休100%を目指し、上司も巻き込んで徹底しており、これまで6人が取得したという。(写真は西部技研創立50周年を記念して制作したスピリッツ・ボード)
「フランクで話しやすい」。管理職の女性2人は、隈さんをこう評する。その言葉が象徴するように、隈さんは「もっと皆さんと話したい」という思いで、数年前から年1回、従業員10人ずつと昼食懇談会をしている。従業員260人ほどで、年間およそ20回。週1回でも5か月はかかる。「一人ひとりの顔を見て話を聞きたいんです。意見や思いをざっくばらんに話してもらい、その場で検討したり決定したりもします。私にとっては何十回もある懇親会でも、相手にとっては年1回だけ。1回1回をできるだけ有意義な会にしたくて、初めのうちはあれこれ考えて胃が痛くなったこともありますよ」と大らかに笑う。
西部技研は今年50周年という節目を迎えた。現在、国内外での特許登録119件、シリカゲル除湿ローター世界シェア30%など、世界レベルの技術で産業インフラの整備に貢献している。隈さんは今後のビジョンをこう語る。「100年企業を目指したい。これまでは創業者の夢に賛同し具現化しようと努力することで、会社が発展してきました。これからは多様化のステージ。ダイバーシティ、つまり性別や国籍、年齢、雇用形態などに関わらず、様々な価値観を持つ従業員一人ひとりがお互いを尊重し、やりがいを持って働き、それぞれが成長することで発展していけるような組織づくりを進めたい」。これらの取組が評価され、2014年経済産業省の「ダイバーシティ経営企業100選」に選定された。
(2015年8月取材)
体を動かすことが好きで、長年スポーツクラブでランニングしていた隈さん。4年前に結婚し、妻にすすめられて屋外をランニングするようになった。「外を走ると爽快感が違うし、いい気分転換になりますね。シューズさえあれば、出張先でも気軽に走れるのがいい。今は1か月100キロを目標に走り込み、今度の福岡マラソンに出場するつもりです」とさわやかに話す。さらに、もうすぐ1歳になる娘を抱っこひもで抱えて、ウォーキングするのも楽しみのひとつ。「仕事が忙しくて、なかなか一緒にいられない」というが、家にいるときはおむつ替えや入浴なども当たり前にこなすイクメンだ。
福岡市で生まれ、福岡大学法学部を卒業後、1987年に株式会社西部技研入社。米国ニチメン社への出向などを経て、1997年に専務取締役営業本部長に就任。2002年より現職。2010年福岡県男女共同参画表彰(企業賞)受賞。2014年、経営革新の功績により春の藍綬褒章を受章。2015年12月、内閣府「女性が輝く先進企業2015」・内閣府特命担当大臣(男女共同参画)表彰受章。
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【か】 【イクボス・イクメン】