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講師情報
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ガルヴァ助産院 院長 助産師
助産院を開業して10年の節目を迎える嶋井元子さん。「この仕事を通して、女性が自分らしく自立して生きていくサポートをしたいと思っています」。出産は新しい命の誕生であるとともに、母親自身も生まれ変わるチャンス。大切な人生の節目を自らの力で越えていけるよう、見守り、支えていくのが助産師の仕事だ。
看護師として働いていたころ、嶋井さんは公民館の青年サークルでさまざまな職種の人たちと交流していた。仲間と妊娠や避妊の話で盛り上がったことから、妊娠の仕組みや性教育の講座をすることに。自分で資料を作成し、医学的な知識をわかりやすく伝えた。「性教育っておもしろい!って思ったんですよ。みんな興味があるし、やっていて楽しい。この体験が私の原点です」。性教育ができる助産師の仕事に興味を持ち、転職を決めた。
助産師になった嶋井さんは、病院で多くの出産に立ち会った。忙しくも充実した毎日を送っていたある日、一冊の本「水中出産」に衝撃を受ける。著者は自然出産の先駆者であるフランスの産婦人科医。薬や麻酔に頼らず自然分娩を勧める説に、深く共感した。その後、来日する予定を知り、東京の関係者のもとへ出向いて、北九州市での講演会を実現した。「博士の話をお母さんたちに聞いてほしかった。呼ばないと後悔すると思ったんです。師匠のような存在で、一番影響を受けた人ですね」。
40歳になったとき、嶋井さんは「人生半分来たな」と思った。2年がかりで自分の人生をじっくり見つめ直し、今後の生き方を考えた。産婦人科医院に勤め続ける選択もあったが、最終的に選んだのは開業の道だった。
出産の瞬間だけではなく、妊娠初期から出産後の育児、食生活や母乳育児にも関わることができる。本人の意志を尊重し、一人ひとりに合わせた支援がしたかった。「自分一人で頑張って立つだけではなく、大変なときに助けてって言えるのも自立だと思うんですよ。安心できる環境を整えるのが、助産師の一番の役割かもしれません」。
開業後は、病院勤務でできなかった地域の事業に積極的にかかわり、新生児の家庭訪問や母親学級、思春期の子どもたちに命の大切さを伝える性教育も行っている。
2010年、嶋井さんは専門家としてアフリカのスーダンに赴いた。北九州市にある認定NPO法人ロシナンテスが国際協力機構(JICA)の草の根技術協力事業に採択され、母子保健の改善事業が行われることになり、地元の助産師会に声がかかったのだ。当時理事を務めていた嶋井さんは即座に応じた。
スーダンでは8割が自宅主産で、村落助産師が出産を介助していた。中には読み書きができない人もいて、出産時の記録が残されていないことも。妊産婦や乳幼児の死亡率も高かった。嶋井さんは1カ月滞在して現地の状況を調査し、レポートを作成。診療所との連携を提案し、今まで実施していなかった産後訪問を村落助産師と一緒に行った。2回目に訪問したときには、状況が改善され、妊婦健診も浸透していた。
「スーダンの助産師さんたちは、誇りを持って一生懸命働いていました。改善したほうがいい点はありますが、素晴らしいこともたくさん。何があっても人のせいにしない、大らかな明るさなど、学ぶことは多かったです」。
2014年11月、これまでの功績が評価され、福岡県男女共同参画表彰「女性の先駆的活動部門」を受賞した。
大きな節目や転機では、いつも出会いに導かれてきた。人との縁には心から感謝しているという。「人はみんな役割を持って生まれてきていると思うんですよ」と穏やかに語る嶋井さん。出産を通して母と子が持つ力を引き出し、その人らしい人生を歩んでいけるようサポートしていく。(2014年12月取材)
青年海外協力隊に興味があり、説明会に3回も参加したという。「異文化に触れるのが大好き!いろんな民族の人たちを見ているだけでテンションが上がるんですよ」。若い頃からいろいろな国を旅した。今年から英会話を習い始め、新しい夢を描いている。「英語ができるようになったら、やってみたいことがたくさんある。海外の学校でも教えてみたいですね」。
北九州市出身。看護学校卒業後、看護師として働き、4年後に助産師の国家資格を取得。総合病院の産婦人科や産婦人科医院で多くの出産に立ち会う。2005年『ガルヴァ助産院』を開業。北九州市の子育て支援・青少年の性教育など地域活動、スーダンの母子保健に関する国際協力など多方面で活躍。2008年から2014年6月まで一般社団法人福岡県助産師会北九州地区理事を務める。北九州市思春期保健連絡会委員。2014年、「福岡県男女共同参画表彰 女性の先駆的活動部門」受賞。
キーワード
【さ】 【NPO・ボランティア】 【研究・専門職】 【子育て支援】