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松本 妙子(まつもとたえこ)さん  (2014年10月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

金融広報アドバイザー / 女性農業者支援のための交流サポーター

誰かが言わなければ、変わらない

 「公務員として経験させてもらったことを活かして、皆さんのお役に立ちたい」。生活改良普及員として、農山漁村の暮らし改善に尽力してきた松本妙子さん。退職後も金融広報アドバイザーや女性農業者支援のための交流サポーターとして、意欲的に活動している。

農山漁村の生活向上と組織作りや人材育成に携わる

 朝倉市の農家に生まれ、香川県生活改良普及員養成所(現香川県立農業大学校)へ進学して、生活改良普及員の資格を取った。生活改良普及員とは、戦後に行われた農業改良普及事業の一環として、主に農山漁村の女性に対し生活改善を指導する地方公務員。家計から健康、衣食住、さらには働き方まであらゆる分野の指導を行い、生活状況や人間関係をよくし、生産振興を図ることが狙いだった。(2005年、農業改良普及員と統合され、普及指導員に改編)
 長崎県に新規採用され、最初の赴任地は対馬。「職員4人だけの小さな事務所でした。博多港から島まで船で7時間。自動車もない時代で、港から事務所へ行くのも2日がかり。でも、現地の人たちとの交流で暮らしを知り、集落ごとに勉強会を開き、学ばせてもらいました。休みの日は、職員皆で魚釣りや山登りをするのが楽しかったですね」と振り返る。
 3年弱で、地元福岡県の職員になり、みかん栽培の盛んな宗像地区を担当することとなった。農業技術や経営に精通した先輩たちと、10年にわたり、様々な農家に関わった。特に、松本さんの印象に残っているのは「農家経済簿」を作ったこと。「農家には農家ならではの家計がある。農業経営の専門家と協力して、農業経営と家計のことがひと目でわかる経済簿を作ったところ、大変好評でした」。また、曖昧になりがちな経営と生活の境を明確にし、家族それぞれの役割や労働時間、報酬などの就業条件を整備するよう家族経営協定の締結を勧めた。
 地域の様々な勉強会の中で、疑問を感じた時は発言するようにしてきた。「地域の会では長年同じリーダーさんだけが采配をふるうことが多く、それではいけないと思いました。リーダーに任せてばかりでなく、全員が責任を持つことで、組織も人も成長できる。そうするように働きかけました」。

子育てしながら働く女性同士で助け合った

 25歳で結婚。同じ県職員の夫は、松本さんが働き続けることを応援してくれた。2人の子どもを出産し、2か月で職場に復帰すると、保育園に入園できる1歳まで、同じ団地の人が子どもを預かってくれた。周囲の人に感謝しながら、仕事と子育てを両立。だが、入園前に子どもの持ち物に一つずつ名前を縫っているときや、入園後に子どもが後追いして泣いたときなどは、複雑な心境で泣きはらした夜もあったという。
 そんなとき、松本さんの大きな支えになったのは、同じ保育園に子どもを預ける団地の女性3人。「早く帰れる人が子どもたちを自宅に連れて帰り、ご飯を食べさせたりして、助け合いました」。校区の小学校には学童保育がなかったため、4人で住民アンケートを行って役場に陳情。その結果、公民館を利用して居残り保育が始まった。
 現場の仕事が好きだったという松本さん。「現場の面白さは、人との関わり。皆さん、生活で培われた知恵が豊かなんです。私が研修で得た知識とは違い、教わることが多かった」としみじみ語る。一方で「酒を飲んで話そうという男性との関係づくりには苦労しました。でも、いったん理解してもらえば、男性は心強い協力者になってくれるんです」と話す。

女性も自分の意見を持ち、役を引き受けよう

 40代で、県本庁に転勤し、生活改良普及員の指導を行う専門技術員になった。
 その後、50歳で糸島地区を担当することに。そのとき、ショックを受けた。「専門技術員が出先へ転勤するとき、男性は役職がつくのが当たり前で、私にはつかなかった。そこで初めて男女差を感じたんです」。女性の地位向上を目指すべく、意識と行動を変えた。「会議に出たら、問題意識を持って話を聞き、必ず発言しました。女性は何もしないと言われないように」。地域の女性にも考えを広め、リーダーを育てていきたいという思いで、福岡県の女性の翼などに参加するよう勧めた。
 2000年3月に定年退職。「皆さんの税金で学ばせてもらった。少しでも恩返しをしたい」という思いから、福岡県金融広報委員会から金融広報アドバイザーの委嘱を受け、一般向けに金銭教育の講師をしている。「消費税や年金、介護、エンディング、生涯設計まで、お金と暮らしは切っても切れない。自作の資料を用いて、難しいテーマをかみ砕いて話すようにしています。もっと早く学びたかったと言われるのがうれしいですね。お金のことを知れば、暮らしが変わります」。ライフワークとして、女性農業者の支援も継続中だ。「家庭でも地域でも会合でも、女性は自分の意見を持ってほしい。そして率先して手を挙げ、役を引き受ければ、新しいものが生まれる」と力を込める。「うるさいなと思われても、誰かが言わなきゃ変わらないからね」。そう言って、さわやかな笑顔を見せた。 (2014年10月取材)

コラム

私の大切な時間

 松本さんの趣味は、茶道と旅行。「茶道は、現職のときから長年続けています。旅行で国内外へ出かけるのも好きで、最近は北海道に行きました(写真)」。そして、近所に住む子ども夫婦2組と孫3人が自宅へ遊びに来る月1回の日も、松本さんにとってはとても大切で楽しみな1日だ。「みんなに手料理を振る舞って、いろいろ話します。おばあちゃんの味を伝えていきたいですね」。

プロフィール

朝倉市生まれ。現香川県立農業大学校を卒業後、生活改良普及委員として、長崎県を経て、福岡県各地に勤務。定年退職後、金融広報アドバイザー、女性農業者支援のための交流サポーターとして活動している。また、福岡県女性海外研修事業「女性研修の翼」でヨーロッパを視察し、あすばる男女共同参画フォーラムの実行委員長を務めた経験もある。2013年2月、金融庁及び日本銀行による「平成24年度金融知識普及功労者表彰」を受賞。

 

 

 

 


 

 

 

 

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