【ロールモデル】
ロールモデルとは
株式会社ゼンリン コーポレート本部 経営管理・IR部 部長
住宅地図、カーナビゲーションの地図情報の大手で、北九州市に本社がある株式会社ゼンリン。戸島由美子さんは23年前に入社し、現在、社内唯一の女性部長として活躍している。予算制度確立や株式上場の準備、投資家向け広報(IR)の仕事に先駆者として携わってきた。
最初の配属先は、営業本部の事務職だった。「何かを形にしていくような仕事がしたい」と思って入社したが、男女間の役割の違いに直面し大きなショックを受けた。やりがいを見いだせず、会社を辞めることも考えた。一方で、「営業をさせてほしいとか、出張させてほしいとか生意気なことばかり言っていました」と、笑顔で当時を振り返る。
転機は1年後に訪れた。福岡証券取引所の株式公開を控え、準備スタッフとして異動になったのだ。戸島さんには、上場審査に必要な予算制度確立の役割が与えられた。各部門の収入と支出を見積もり、会社全体の経営数字を予測して取りまとめる仕事だ。予算の知識を基礎から学び、いろいろな部署の先輩に教えを請いながら新制度導入に向けて準備を進めた。
仕事はおもしろくなったが、今度は新しい壁にぶつかった。社内の営業所に電話しても話を聞いてもらえず、電話に出ると男性に代わってほしいと言われる。「私が一番知っていることなのに、話す前からわからないと決めつけられる。悔しくて何度も泣きました。絶対に向こうから指名されるようになってやろう!と思いました」。
予算を立てるためには、各部門と連絡を取り合わなくていけない。メールがまだ普及していない時代、電話は重要な連絡手段だった。戸島さんは予算説明会の開催を提案し、北海道から九州まで7拠点の支社を回った。当時女性の出張は珍しがられたが、説明会を毎年続けたことで現場とのコミュニケーションが円滑になり、仕事が進むようになった。「営業所長と直接会えたことで、電話もしやすくなりました。このときの人脈は、仕事をしていくうえで大きな財産になりました」。
そうして、予算のエキスパートとして経験を積み、数字に対する洞察力や折衝力を身に付けていった。2004年4月、経営戦略室経営管理担当のマネージャーに昇格。東京証券取引所の一部上場の準備には管理職として関わり、外部との交渉役も務めた。「折衝の相手が社内から社外に変わり、今までとは違う厳しさを感じた」と言う。望む結果を出すため綿密に計画し、有効な情報開示や交渉の仕方など多くのことを学んだ。
現在はIR担当部長として、投資家に向けた広報活動を行っている。「会社に対する期待を感じ、もっと頑張らないといけないと思うようになりました。投資家の方に情報を伝えるとともに、外からどう見られているかを社内に伝えていきたいですね」。
この20年余り、会社の変遷を肌で感じてきた戸島さん。IT化による事業形態の変遷などさまざまな変化があり、女性の働き方も以前とはかなり違ってきている。「あんなふうになりたい!と思う先輩がいると幸せですよね。女性たちが自分に合った働き方を見つけられるように、たくさんの選択肢をつくっていきたいです」。
管理職になって10年。新しい役割を与えられたときは、いつも躊躇せずに引き受けてきた。挑戦しているという意識はなく、大きな目標を掲げたこともない。「チャレンジなんておこがましい。与えられることを断らず、全部経験してみたいと思います。新しいことが好きなんですよ」。
初めての仕事をするときは、いつも想像を膨らませる。実際には期待外れのこともあるが、想像を超える楽しさを体験することも。「おもしろいのとそうでないのは表裏一体」と、さらりとした口調で話す戸島さん。ワクワクする気持ちを大切に、自然体で道を拓いていく。 (2014年9月取材)
大自然や歴史に触れ、新しい体験ができる旅が好き。富士登山や、ホノルルマラソンを経験したこともある。「人は、自然の力には全然及ばない。そんな大きなものに触れると感動しますね」。2012年の夏、屋久島で有名な「ウィルソン株」に行った。巨大な切り株の中が空洞になっており、内部は約10畳の広さ。そこから空を見上げるとハート型の景色が見えた。
北九州市出身。西南女学院短期大学英語科卒業後、1991年株式会社ゼンリンに入社。2004年、経営戦略室経営管理担当マネージャー(管理職)に。経営戦略室IR・広報部IR・広報課課長を経て、2012年から現職。
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【た】 【働く・キャリアアップ】