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三宅 静恵(みやけしずよ)さん  (2014年5月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

合同会社三宅牧場まきば 代表社員

どうせ苦労するなら、やりたいことを

 豊かな緑や川に抱かれた筑紫野市の国道沿いに、三宅静恵さんが経営する加工・販売店「三宅牧場まきば」はある。取材におじゃました平日の昼下がり、加工所の奥からは楽しそうに話す女性の声が聞こえ、店にはお客さんが次々と訪れていた。エプロン姿の三宅さんは、明るくお客さんにあいさつすると、親しげに言葉を交わしている。ここには、のどかであたたかい時間が流れていた。

社会に出て気づいた家業の素晴らしさ

 牧場を経営し、米を作る両親のもとに生まれ育った三宅さん。3姉妹の長女で後継ぎという道もあったが、短大に進学して、憧れのOL生活を始めた。「今思えば、単なる反発心で違う道を選ぼうとしていましたね。両親は私の意思を尊重して、進学や就職は自由にさせてくれました」と振り返る。
 しかし、会社勤めのなか、三宅さんの心はだんだん家業へと向いた。きっかけは、両親の作った米や野菜を口にした友人のひと言だった。「こんなにおいしいの、初めて食べたよ」。いつもおいしい農作物が食卓に並び、それが当たり前だと思っていた三宅さんはハッとしたという。「丹精込めて作ったものを食べて喜んでくれる人がいる。改めて農業の素晴らしさに気づき、いきいきと働く両親を誇りに思いました」。
 2年半勤めた会社を辞め、家業の手伝いを始めた。23歳で会社員の男性と結婚しても働き続け、2児を出産。子育てしながら「私はどんな形で家業を受け継げるのか」と考え、頭に浮かんだのが実家の米を餅に加工して販売することだった。思い立ったら、じっとしていられない性分。試行錯誤して作った餅を地元の店に出したところ、予想以上に売れたため、翌年にはコンテナハウスの加工所「まきば」をスタート。さらに3年後に31歳で、現在の直売店兼加工所「三宅牧場まきば」をオープンした。数百万円の資金は親から借り、毎月の売上から返済することに。大きな決断に迷いはなかったのだろうか。「どんな仕事にも苦労はある。どうせ苦労するなら、自分のやりたいことでやりがいのある仕事をしたかった」と言い切る。

子育て中のスタッフや家族に支えられて

 まきばの看板商品は、自家産の米で作る餅とポン菓子、地どりおにぎり。早朝4時には商品の製造を始め、8時から販売先へ配達。戻ってきたら店を開けつつ、翌日の仕込みにかかる。当然ながら、家事や子育ても待ったなし。4世代同居とはいえ、ハードな日々が続いた。それでも「何もかも面白くて、何よりおいしいと言ってもらえることがやりがいにつながりました」。
 委託販売先や注文が増えるにつれ、自分ひとりだけでは回らなくなってきたため、1年ほどで配達を手伝ってくれるママ友を雇用。2007年には加工所を法人化して、今では子育て中の30~40代を中心に、女性8人をパートタイムで雇用している。家庭を大切にしながら働いてもらいたいから、毎月のシフト表は真っ白な紙に各自が希望を書き込むスタイルだ。「皆さん自ら考え効率よく働いてくれるし、話が合うので楽しい職場です。消費者として商品にシビアな意見をくれるのもありがたいんですよ」。さらに「会社員の夫はずっと私を応援してくれて、軌道に乗るまでは休日に配達や家事を手伝ってくれたり、今でも家事や育児に積極的に関わってくれます。中3の長男も部活の弁当を自分で作ったりしますよ」と、家族の支えも大きな力となっている。

仕事を通して、地元に貢献したい

 商品はインターネットでも販売。中でも、子を持つ親ならではの着想で製造を始めた、1歳の誕生を祝う「誕生餅」は、ヒット商品になった。「安心・安全な素材と製法にこだわるうちの餅は、昔ながらの味わいでかみごたえがあり、翌日には硬くなってしまいます。でも、そこにこだわりたいんです。おいしいと言ってくださる人たちを裏切らず、自信を持っておすすめできるものだけを誠実に作っていきたい」と話す。
 餅の加工・販売を始めて13 年。最近、新たな思いも芽生えた。「私なりに家業を残すために始めた仕事ですが、地域に愛されてこそだと日々実感しています。この仕事を通して、地域にどれだけ貢献し還元できるか考えていきたい」。この地に根をおろし、親から受け継いだバトンと未来を見つめ、三宅さんは次なる挑戦を模索している。  (2014年5月取材)

コラム

私の大切な時間

 「仕事が楽しくてたまらないので、特に趣味といえるものがなくって…」と明るい表情でしばし考える三宅さん。「あえて言うなら、普段じっくり家のことをする余裕がないぶん、家事をする時間がリフレッシュになっていますね。ゴールデンウィークには家を掃除して片付け、ご飯を作ったりして、ストレス解消になりました。ふらっと出かけるのも好きですよ」。

プロフィール

福岡県筑紫野市生まれ。牧場と農業を営む両親のもと、3姉妹の長女として生まれ育つ。地元の短大を卒業後、一般企業に勤め、1996年に実家の牧場へ転職。結婚・出産を経て、実家で生産する米を加工した餅の販売を始め、2007年「合同会社三宅牧場まきば」を設立。平成25年度農山漁村男女共同参画優良活動表彰(次世代を担う若手地域リーダー部門 地域参画部門)農林水産大臣賞受賞。3人の子どもがいる。

 

 

 

 


 

 

 

 

キーワード

【ま】 【起業】 【農林水産】

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