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松本 玲子(まつもとれいこ)さん (2013年2月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

「特定非営利活動法人福岡ジョブサポート」理事長

「違和感」から出発した障害者の就労支援

 「障害のある人にどう接していいかわからず、身構えてしまう方が多いですよね。はじめは私もそうだったけど、すぐ気づきました。私たちと全く同じなんだって。一人ひとり個性があって、優しい人がいれば、気が強い人もいる。特別視する必要はないと思うんです」。優しい微笑みを浮かべながら、穏やかに語る松本玲子さん。もともとは栄養士だが、自身が抱いた違和感をきっかけに、障害者支援の道を力強く歩んでいる。

自分の感覚を信じて行動を起こす

 栄養士として働き、結婚後は専業主婦をしていた松本さん。3人目を出産後に仕事を探したが、子育て中の女性を雇ってくれるところはなかなか見つからなかったという。「仕事をしたくてもチャンスがなく、悶々としていました」。知人の紹介で栄養士として再就職を果たしたのは、33歳のとき。そこは障害者施設だった。街で車いすの方を見かけることもない時代。厨房から見る世界は、松本さんにとって新鮮だった。
 しばらくすると支援全般のリーダーを任され、次第に「おかしいな」と感じるように。「そこにいる方々は、一度入所したら昼は施設で過ごし、夜は寮で4人部屋。与えられた環境に好き嫌いをいうこともなく、施設の中だけで生きていくことに疑問を持ったんです」。専門家ではなかったからこそ、芽生えた違和感。松本さんの目は、まさに社会の目だった。
 ちょうどそのころ、アメリカから自立生活運動の風が吹いていた。「自分がどう生きたいのか、自分のことは自分で決める権利があるという考えに共感しました。障害があっても、施設の外で自立して暮らしてみてはどうか」。そこから、粘り強く周囲を説得。車いすの男性2人が近くのアパートを借りて、住む試みを始めた。アパートから昼間だけ施設へ通う日々。ほぼ介助なしで自由な暮らしを手に入れたふたりは、心から喜んでいた。「やればできるとわかり、すごくうれしかったですね」。ただ当時、地域でサポートしてくれる場所がない。頼りになるのは警察と消防くらい。地域に障害者の就労や生活を支える仕組みを創る必要性をひしひしと感じた。
 「自分ができることをやろう」と退職して、50歳で社会福祉士の資格を取得。1997年に「福岡ジョブサポート研究会」を立ち上げた。自分たちの想いと障害者の想いが本当に合っているか知りたくて、1300人にアンケート調査も実施。働きたい人が多いという結果に「やはり支援の場が必要」と自信を深めた。そして99年には作業所「障がい者のはたらく拠点ジョブサポート」を開設。利用者3人からのスタートで、半年後にはその中の一人が仕事を得て、社会へ羽ばたいた。

社会でサポートできる体制を築きたい

 現在は3つの拠点で、就労と自立した生活をサポートしている。生活リズムを整える「自立訓練」、事業所で働く「就労継続支援」、そして就職を目指す「就労移行支援」。障害の区別なく、一人ひとりに合わせたきめ細やかな支援を行う。「最終的に働くことを目標にしています。ここでスキルを身につけ、働く感覚を養い、自信をつけて、社会の中で生かしてほしい。人間が生きていくには、他人と関わり役に立っている実感が大切だと思うんです。プライドを持ち生きていくお手伝いをしたい」。松本さんが働くことにこだわるのは、自身の経験が少なからず影響している。「大学を卒業してすぐに父が亡くなりました。母は専業主婦で、わが家は父を通じて社会とつながっていた。悲しむ余裕すらない母を見ていたから、私は働くことにこだわるのかも。それに、再就職で悩んだぶん、働きたくても働けない人の気持ちがわかるんです」と明かす。
 2012年には就労移行支援を受けていた20人中17人が就職。この13年で60人を超える人が就職を果たした。「障害の重い軽いは関係ないんですよ。就労はかなり難しいといわれた方でも『絶対に働きたい』と頑張り、見事に就職されました。本人の意志の強さが大切。人が変わっていく姿を見るのがうれしくて、そこに関われる喜びはかけがえがない」と話す。障害者と職場の架け橋となっているのが、ジョブコーチの存在だ。障害者のスキルや希望を把握した上で、どんな仕事があっているのかを共に考える。就職後も双方の間に立ち、いい関係を保てるように支える。ジョブコーチの果たす役割は心理的にも大きく、松本さんはジョブコーチの育成にも力を入れている。
「これからも働くことを中心にすえて事業を続けていきます。企業や社会の理解を得ながら、地域の施設やさまざまな機関と手を取り合って活動していきたいですね」。いつも松本さんの心にあるのは「やってみれば道が拓ける」という想い。自分のこれまでの経験はもちろん、何よりも目標に向けて日々励む障害者の姿が、その想いを確かなものにしてくれるのだろう。

(2013年2月取材)

コラム

私の大切な時間

花や緑が大好きという松本さん。「休日には道の駅などで季節の花を買い、家の中や事業所に活けるのが楽しみ。あとは、活字中毒というほど読書も好きですね」と話す。そしてもう一つ、大切にしているのは「連れ合いとおしゃべりする時間かしら。考えてみたら、ふたりでよく話をしています」と微笑む。夫は松本さんの仕事に理解があり、何でも語り合えるよきパートナーなのだそう。

プロフィール

熊本県出身。大学卒業後、栄養士として働く。結婚して福岡へ引っ越し、3人の子どもを出産。障害者施設で働いたのを機に、社会福祉士の資格を取得。97年に「福岡ジョブサポート研究会」を立ち上げ、99年に「障がい者のはたらく拠点ジョブサポート(馬出)」、2002年に「同(郷口)」を開所。2006年にNPO法人福岡ジョブサポートを設立。2012年にはJR箱崎駅前に生活訓練のための新たなスペースを設けた。

 

 

 

 


 

 

 

 

キーワード

【ま】 【福祉】

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