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諸藤 見代子(もろふじみよこ)さん (2012年1月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

環のまなび工房 代表

教師経験を活かして、アジアの子どもたちに楽しい環境教育を 

 工業の町・北九州市は、公害を克服した都市としても知られている。2006年には「日本の環境首都コンテスト」で1位になるなど、行政と市民が一体となった環境への取り組みに高い評価を受けてきた。その取り組みの立役者ともいうべき人物が、北九州市環境ミュージアムの元館長・諸藤見代子さんだ。現在は、北九州市立若松中央小学校で常勤講師をしながら、休みごとにアジア諸国の子どもたちに環境教育を行っている。

経験は隠すのではなく、活かすもの

 1979年から13年間、天職と思い小学校教師をしていた諸藤さん。「子どもと関われる時期はとても貴重なもの。『お母さん』を存分にやってみたい」と思い、35歳で退職し専業主婦になった。子どもの小学校では、PTAのP(保護者)の方をやってみようと、まずは家庭教育学級に参加。はじめのうちは元教師という経歴を隠していたが、役員仲間の一人に言われたひと言が、諸藤さんを変えた。「先生だったことを隠しちゃだめ。今までやってきたことを活かさなきゃ」。その後、PTA役員の一つ広報委員を引き受け、それまで先生に頼んでいた原稿作成を諸藤さんが担当した。先生たちが頑張っている姿を取材し、それを読む子どもたちが楽しみになるようなPTA新聞づくりをしたいと内容を一新、子どもが在校する10年間広報委員を担当した。

新しい道は、「市民が市民に伝える」環境教育

 同時に子ども会活動にも関わり、子ども会を「エコ」で楽しくやろう!と環境省の「こどもエコクラブ」に参加、環境をテーマに活動していた。子どもたちに環境をどう伝えるか模索していたところ、2001年に北九州博覧祭が開催されることに。「環境ボランティア100名募集」に迷わず手を挙げた。それが、諸藤さんを新しい道へ誘うきっかけになった。経験が買われ、その年に学習施設である北九州市環境ミュージアムのコーディネーターになり、子どもたちにわかりやすい学習プログラムと進行方法を編み出した。同時に、案内役のスタッフの教育も行った。元教師としての経験が、どんどん活きてくる。「2007年には次長になり、2009年副館長、その翌年に館長になってしまったんです」と明るく笑う。諸藤さんのような一市民が館長になることは市の「環境市民力」を上げるうえでも大きな意義があった。

館長から再び先生へ。環境教育の原点は「人づくり」

 行政用語ではない、生活感満載の言葉で環境のことを伝える館長として、積極的に取り組んできた諸藤さんだが、館長職は2年で辞職。「あと10年働けると思った時、やっぱり教育をやりたいと強く思うようになったのです」。自分たちの環境や人のことをちゃんと見られる人が育ったら、街をつくるいい一員になるんじゃないかなと思ったそうだ。周りは驚いたが、「先生に戻るなら」と誰も反対しなかったという。
 20年ぶりに現場に戻った今、全学年の少人数指導の算数の担当をしている。教室の後ろから子どもたちの視線で授業を聞き、補助指導していると、見えてきたことがある。子どもたちは心がさびしいと下ばかり向き、勉強に身が入らないのだ。そんな時は背中をさすったり笑顔で顔を合わせたりする。ちょっと手伝うと自信が出て、顔が前に向く。「人は心に余裕がないと、環境のことなんて考えられないのです。お母さんをやって、館長を経験して戻ってきたからこそ、元々好きだった先生業のゆとりができたのかもしれません」。

せっかく世界が変わったんだから、出来ないことにチャレンジしたい

 諸藤さんにはもう一つの顔がある。夏休み等学休期間に、中国、インドネシアなどアジア諸国に出向き、環境教育を行っている。今まで北九州市で行ってきたことを、それぞれの国の文化にアレンジしてわかりやすく、子どもたちに伝えている。交流しながら「共に学ぼうね!」という姿勢で意識啓発をしている。「私は火つけ役だけ。あとは子どもたちが感じてくれればいい。国は違っても空や海でつながっている。隣国と問題解決のために学び合うことが大切」。
 諸藤さんの人生は、チャレンジの連続。「それまでやってきたことを辞めてもいいけれど、得意なものの技(わざ)は磨いておきなさいね。もう一度役に立つ時がきっと来るから」、後輩たちにはいつもこう伝えている。「今、自動車教習所に通っているんですよ。せっかく世界が変わったんだから、出来ないことにチャレンジしたくて」。運転できるようになった「諸藤先生」は、また新しいことにチャレンジしていくに違いない。                   (2012年1月取材)

コラム

とっておきの時間

「人があまり行かない秘境に、一人で行って自然を感じるのが大好き」と諸藤さん。例えば、奄美大島や屋久島など。海辺に船を浮かべて、ぼーとしたり、大きな木と対話したり。「お金がちょっと貯まったら3日間くらい秘境に。こういう時は一人が一番!」。夫はお留守番だそう。「このリフレッシュタイムがあるからこそ、心が満タンになって、次に発車できるんです!」。

プロフィール

 北九州市八幡東区出身。小学校教師を13年間勤め、35歳で退職。2001年「北九州博覧祭」をきっかけに環境ボランティアに。2005年「環のまなび工房」を立ち上げる。2010年北九州市環境ミュージアム館長に就任。2012年館長を退職。現在、北九州市立小学校常任講師。年に数回、国際環境協力員として、アジア諸国に出向き、環境教育を行っている。環境省3R推進マイスター。福岡県3R達人。ほか、北九州市環境審議会委員、福岡県環境審議会委員、など、多くの委員を務めている。

 

 

 

 


 

 

 

 

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