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金 成子(きむそんじゃ)さん  (2012年7月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

株式会社アヴァンティ 取締役 北九州支社長

私だからできることをやっていきたい

 170cmのスラリとした長身に、穏やかな笑顔が印象的な金さんは、働く女性を応援する人気のフリーペーパー『アヴァンティ』を発行する会社の北九州支社長。創業3年目から、会社を支えてきた人物だ。
 

ライフワークを求めて福岡へ

 韓国の釜山で、6人兄弟の4番目として生まれた金さん。父親は農家の長男で、早朝から深夜まで、大家族のために働く母親を見て育った。「私は自分のための人生を歩む。かっこよく働く女性になりたい」、そんな想いが自然に芽生えた。大学では、日本語を専攻。「当時、日本と韓国は一般人の行き来がほとんどなかったけど、近いうちに必ず交流が活発になると思ったから」というから、先見の明があったに違いない。
 当時の韓国は、女性は20代前半には結婚し専業主婦になるのが“女の道”とされた時代。大学4年生から、お見合いの話が次々にきた。結婚する気はなかったが、断る理由も見つからず、形だけのお見合いを重ねた。
 一方で「早くライフワークを探さなければ」と焦りが募る。いろんなことに手をつけてみても、これといったものが見つからない。まるで真っ暗なトンネルの中にいるようだった。そんなある日、写真愛好家が撮ったモノクロの写真が心にふれた。「これかも!」、希望の光が差した。公募用写真をプリントするフォトラボへ頼み込んで弟子入り。そこで九州産業大学の日本人学生と出会ったのを機に、同大学大学院の写真研究科へ入学した。「予想通り、親は『婚期を逃すと大変!この歳で日本に行くなんてとんでもない』と大反対。『卒業したらすぐ帰る』と説得して来日しました」。

突き詰めることで見えた自分の道

 卒業後は「アジアのトップランナーの日本をもっと知りたい」と日本で就職を決意。福岡で映像制作会社に入社し、ディレクターとして仕事を任される。が、時間がたつにつれて、どこかしっくりこない。「自分にうそのない生き方をしたい」。金さんは再び、自分探しをはじめる。「自分の居心地がいい時間や場所、好きなことを紙に書き出しました。人、アート、写真、文章…キーワードは浮かぶものの、先に進めなくて。何日も悩んであきらめかけたとき、ひらめいたんです。そうだ、雑誌がある。どれか一つを深めるやり方でなくて、雑誌なら広く関わっていられる」と。
 そこで福岡のフリーペーパーを読み比べ、『アヴァンティ』に焦点を絞った。「ページが少なく地味な印象だったけど、一番訴えかけてくる力を感じた。会社の規模が小さいぶん、何でもさせてもらえそうだし、会社と共に自分も成長できると思いました」と明かす。手紙に熱い想いをしたため、速達で投函。次の日には社長から電話があり、翌日に面接、翌々日には出勤という、実にスピーディな展開だった。
 30歳、女性。異国での再出発に、もちろん不安はあった。でも、希望に燃えていた。会社に貢献できるなら、何でも許される自由な社風。営業から企画、原稿、写真まで、丸ごとひとりで担当した。「3年後は韓国に帰って会社を作ろうという考えもあり、それまでに全てのノウハウを吸収するつもりで、一生懸命働きました。仕事は自分で作るもの、自分の階段は自分で作ってのぼるものだと実感しましたね」と振り返る。

留学生から日本企業の取締役に

 そんな金さんに大きな転機が訪れたのは、入社から6年目。会社の新事業として北九州版の立ち上げを提案したら、自ら責任者として赴任することになったのだ。外国人の自分を取締役に抜擢してくれた社長の気持ちがありがたく、その気持ちに応えたいと奔走。しかし、業績は思うように伸びず、悩みを抱えた時期には、カウンセリングを受けて、自分を取り戻したこともある。会社の成長を肌で感じてきた金さん。リーダーになることで、見えてくる世界が変わった。外への視界が広がり、トップとしての苦労は人間としての幅を広げてくれた。

北九州を愛し、さまざまな活動を展開

 北九州に来た当初は戸惑いもあったという金さんだが、今は、深い愛着を感じている。酒屋で立ち呑みをする角打ちの面白さを知り、これは北九州市のブランドになれるかもと「北九州角打ち文化研究会」の立ち上げに関わり、その事務局長も務めている。今ではすっかり「名物」として定着しているようだ。そんな金さん自身も、北九州市に欠かせない存在としてさまざまな委員会に委嘱され活躍中だ。ドラマチックな恋愛の末、スピード結婚も果たした。
 「これからは私だからこそできることを追求していきたい。ひとつは、日韓の交流に貢献すること。もうひとつ興味を持っているのは“女性のまちづくり”。これまでの街の担い手は行政や男性が主役だったけれど、今からは民間、女性、大学などに移り変わっていく。みんなで街の宝を見つけて、街をつくっていくなんて、素敵だと思いませんか」と夢は膨らむ。
 まっすぐな人だ。自分の気持ちをごまかさず、流されることなく、疑問や不安があれば、そのつど立ち止まり、自分に向き合ってきた。だからこそ、色鮮やかな人生を力強く切り拓いていけるのだろう。

                                                                                                          (2012年7月取材)

コラム

わたしの大切な時間『おいしい時間』

「おいしいお酒を飲みながら、女友達とおしゃべりするのが大好き。以前は、女性たちの井戸端会議ほど無駄なものはないと斜めに見ていたけど、今はすごく楽しくて大切な時間になっています」。もう一つは、家の模様替えと掃除だ。「頭がもやもやするとき、一番ストレスを感じる。家を片付けると、頭もすっきり。やる気が出てきます」。

プロフィール

韓国の釜山出身。1989年に来日して、九州産業大学大学院写真研究科を卒業。映像関連の会社を経て、1996年に有限会社ファウプ(現・株式会社アヴァンティ)に入社。2000年に『アヴァンティ』副編集長となり、2002年には北九州支社を立ち上げる。北九州市基本構想審議会、北九州ブランド戦略会議など、市の委員を多数務める。また、2005年に「北九州角打ち文化研究会」を立ち上げ、角打ち文化の普及活動も精力的に行う。

 

 

 

 


 

 

 

 

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