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多久島 法子(たくしまのりこ)さん   (2012年7月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

能楽師

能楽界と一般の方たちの橋渡し役に

 大濠能楽堂の楽屋口に、紋付き袴姿で颯爽と現れた多久島法子さん。取材陣が思わず「おおー」と声をもらしたほど、凛とした空気をまとい、端正な顔立ちと所作の美しさが際立つ。「紋付き袴を着ていないと、私、能楽師に見られないんですよ」と親しみやすい笑顔で迎えてくれた。

伝統を受け継ぐ能楽師の家に生まれて

 650年もの歴史を有する日本の伝統芸能「能」。現存する演劇としては世界最古とされ、ユネスコの世界無形文化遺産にも認定されている。祖父と父親が能楽師で、ともに重要無形文化財総合指定保持者という家に生まれた多久島さん。わずか2歳で初舞台を踏み、たびたび舞台に立ったという。毎日、厳しい稽古を重ねたのかと思いきや、「お稽古したのは舞台で役がつくときだけ。ピアノなどを習っている人のほうが、よほどきっちり練習していたと思います」と笑う。二人姉妹の妹で、何でもやりたがる性格だった。「3歳のころ、舞台の本番で突然、練習とは違う難しい型を平然とやってのけて、周囲を驚かせたことがあるそうです。姉のマネをしたかったんでしょうね」。
 父親から「能楽師になれ」と言われたことは、一度もない。能がたまらなく好きで、能楽師を志したわけでもない。多久島さんを駆り立てたのは、ある想いだった。「『多久島家の伝統芸能を継承する』という使命感でした。8歳上の姉は能とは全く違う道へ進み、私がやらなければという気持ちが自然に湧いていたんです」。

女性ゆえのハンディにとらわれない

 本格的に能楽を学ぶため、東京藝術大学へ入学。「能楽師を目指す同世代の人たちと切磋琢磨するうち、これを一生の道にしようと決意が固まりました」。卒業後は、大阪の大槻文藏さんに入門して、朝から晩まで修行。自分の時間はほとんどない生活を7年続け、独立を果たした。独立公演では、女性の能楽師では初というハードな演目にも挑戦した。
 能はもともと男性が演じるもの。プロの女性能楽師は、今でも圧倒的に少ない。中でも20~30代の若手は、日本に4、5名だけという。「非常に厳しい世界です。10年ほどの修行に耐え、プロになっても生涯勉強。女性ならではのハンディもあります」と多久島さん。能のシテ方(主役)は通常は能面をつけて演じることが多いが、男性の役の中には能面をつけない曲もある。「だから女性には演じられないと言われることもあります。そうでなくても、ただ、女性という理由だけで役をもらえないことも…」。でも、それを苦にしたことはないときっぱり。「たとえば、男性でもかっぷくのいい人は、やせ衰えた役だと一見違和感があるでしょうし。誰にでも個性はあって、お互いさまですから。私の場合、俊敏な動きも得意ですし、女性で小柄という弱点を個性に変えて、自分ができることを精一杯やって、進めばいいと思っています」と実に清々しい。

奥深く自由な能の世界を知ってほしい

 檜の香りが漂う能楽堂。身長153cmの多久島さんが舞台にあがると、大きな存在感を放つ。「能舞台は前と横に客席があります。あらゆる角度から観られる緊張感があり、お客さまから感じるパワーもすごいんですよ。そして、能の特徴は、極めてシンプルなこと。大がかりなセットがない簡素化された空間で、余計なものをそぎ落とした動きと舞い、謡、囃子で表現します。だから、演じる側はもちろん、観る側にも豊かな想像力が必要とされます。それが、能は小難しいと思われるゆえんでしょう。でも、少し知識をつけていただけば、その人なりの感じ方ですごく自由に楽しんでいただけます」と能の魅力を熱く語ってくれた。
 だからこそ、多久島さんは一般の方を対象にした活動にも力を入れている。福岡や佐賀の小学校で能のワークショップをしたり、能サークルを指導したり。大阪のイタリアンバーでは、食事を堪能しつつ能を身近に感じてもらうイベントを開催したことも。「女性が説明する方がとっつきやすいようで、みなさん構えずに接してくれるんですよ」と大きな手ごたえを感じている。「福岡市内の小学校では、新たに能楽クラブが設立されたんです」と目を輝かせる。
 「伝統を継承しつつ、新しいことにチャレンジしていきます」。能の謡を童謡のように広めたい、話を紙芝居にしたい…多久島さんの頭の中にはいろんな構想が広がり、熱を帯びている。能楽界に登場した新星は、のびやかな発想と行動力でひと際輝き、未来を見つめている。 

                                                                                                         (2012年7月取材)

*上から3枚目の写真は昨年(平成23年)の独立披露能の際の「石橋」という曲のワンシーン。

コラム

わたしの大切な時間

 多久島さんの最近の趣味は、旅行。「伊勢神宮への旅行では、古事記を3冊読んでから出発しました。 最近は海に潜って魚と戯れることにもハマっています。あとは、大河ドラマの平清盛を撮りためて、購入した役者ブックと比べながら鑑賞しています。能の舞台や登場人物が出てくることも多いので。楽しめて、知識と感性を養えて、仕事にも役立ち、一石三鳥ですね」。趣味もすべて能楽に結びついているようだ。

 「おいしいものを食べに行くのも大好きなので、旅行に行くとついついおいしいものを探して食べてしまいます」と多久島さん。写真はその時のワンショット。

プロフィール

能楽師。1981年福岡市で生まれ、2歳で初舞台をつとめる。2000年に東京藝術大学入学、音楽学部邦楽科能楽専攻で最も優秀な生徒に与えられる「安宅賞」を受賞。卒業後は大阪の大槻文藏さんへ入門、2010年に独立。翌年には観世流御宗家出演のもと「多久島法子独立披露能」を催す。現在は福岡をはじめ、佐賀、大阪、東京などで舞台に立つほか、稽古やワークショップなども積極的に行う。父親は、能楽師の多久島利之さん。

 

 

 

 


 

 

 

 

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