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石村 一枝(いしむらかずえ)さん(2012年5月18日取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

株式会社石村萬盛堂 取締役

お菓子を通して博多の歴史や文化を伝えたい

バレンタインのお返しをする日として、日本で定着している「ホワイトデー」。その日を考案したのは、博多を代表する鶴乃子本舗「石村萬盛堂」3代目社長・石村僐悟さんと妻の石村一枝さんである。 

雑誌の投稿からホワイトデーが誕生

 福岡市で育った石村一枝さんは、明治38年創業「石村萬盛堂」の3代目・石村僐悟さんと結婚した。「プロポーズの言葉は『社会と接点を持つことによって、人は成長する。だから、君も一緒に働いてもらいたい』でした。すごく戸惑ったんですよ。女性は家庭に入るのが当たり前の時代でしたから」。気品あふれる石村さんは、実に楽しそうな話しぶりが印象的だ。「でも、よく考えてわかったんです。私のことを思って、そう言ってくれているのだと」。そうして石村さんは、新たな人生を歩み始めた。
 一貫して取り組んできたのは、主に商品企画と販売促進。ある日、雑誌を読んでいたら、「バレンタインデーのお返しにマシュマロやクッキーがほしい」という女性の投稿が目にとまった。「マシュマロといえば、うちだわ!」。創業当時からの看板商品「鶴乃子」は、黄味あんをマシュマロで包んだ銘菓。そこで、3月14日を「マシュマロデー」と命名し、1978年に福岡のデパートでチョコレート入りマシュマロを売り出した。翌年には東京でも発売され、石村さん夫妻が考案したホワイトデーは全国へ広まった。「バレンタインデーにいただいたチョコレートをマシュマロでやさしく包んでお返ししようと、社長が言ったの」と開発秘話を明かしてくれた。その後も和菓子の枠を超えた事業をしたいと夫婦で話し合い、洋菓子「ボンサンク」を立ち上げるなど、新たな試みを続けている。

「ワークライフ」ではなく「“ライフ”ワークバランス」

 精力的に仕事に向かう一方で、2人の男の子にも恵まれた。小学校ではPTA役員を務めるなど、子育てにも力を注いだ。そんな石村さんにとって、特に印象に残っているエピソードがある。「仕事が忙しく家のことまで手が回らなかったとき、帰宅して『遅くなってごめんね』と子どもたちに謝りました。そしたら『お母さん、謝らんでよかよ。仕事を頑張りよっちゃけん』と励まされたんです。そんなふうに言ってくれるなら、一生懸命に働こうと心に誓いました」としみじみ振り返る。
 「私がこうして働いてこられたのは、家族や両親をはじめ、支えてくださった皆さんのおかげ」と感謝の言葉を何度も口にする石村さん。「最近は『ワークライフバランス』という言葉が広まっているけれど、私の場合は『ライフワークバランス』。ベースは『ライフ』であって、家庭がうまくいってこその仕事ですから」と自らのポリシーを語る。「男女共同参画と言えば、福岡の恵比寿さまは夫婦恵比寿だとご存知ですか。博多のまつり・どんたくで馬に乗ってお出ましになられる恵比須さまは、釣り竿と鯛を持つおじいさんと玉を持つ女の人。志賀島の恵比須さまも、男女ふたり。恵比須さまを祀る神社で行われる行事・玉せせりも、陽と陰という2つの玉があります。これらは全国的にも珍しく、福岡には古くから男女共同参画という文化が根づいていたのでしょうか。素晴らしいことですね」。文化に造詣が深い石村さんならではの視点は、興味深い。

大切な文化や歴史を受け継ぐ会社として

 「私たちの仕事は、お菓子を売ることだけではありません。お菓子に伴い、歴史や生活文化を受け継ぎ伝えるのも大きな役割だと考えています」と石村さん。確かに同社には、博多の歴史を色濃く反映した商品が多い。山笠の時期に出る「祇園饅頭」、先代が崇敬した仙厓和尚を偲ぶ「仙厓さん」、箱崎松原の茶会で千利休が豊臣秀吉に茶を点てたことに由来する「御抹茶饅頭 釜掛の松」など、一つひとつのお菓子に物語が宿る。
 また、福岡市の香椎宮参道に「いしむら勅使道店」を出店したのも、同社ならではの理由がある。「あの参道は古くから天皇の勅使が通られる『勅使道』。皇室とゆかりの深い場所であり、今でも10年に1度、勅使がお通りになります。店をつくることによって、この文化の薫り高い地名を後世に残したいと考えました」と語る。
「働き続けられることに感謝しています。これからも思いを形にしていければ」。いつも全力で、心を尽くして。人を惹きつける魅力に満ちた石村さんは、これからも文化や歴史の繋ぎ手として、新しい物語を紡ぎ出していくのだろう。

                                                                                                     (2012年5月18日取材)

コラム

わたしの大切な時間『おいしい時間』

「紅茶を飲む時間が幸せ。大分県杵築に、桃源郷みたいに本当に素敵な紅茶畑があるの」と瞳を輝かせて教えてくれた石村さん。「明治時代から受け継がれた紅茶の木を、化学肥料や農薬に頼らない自然にやさしい栽培方法で丁寧に育て、一枚一枚手摘みされています。国産紅茶ならではの上品で深い味わいは格別なんですよ」

プロフィール

株式会社石村萬盛堂 取締役。
福岡市出身、福岡女学院大学を卒業。鶴乃子本舗「石村萬盛堂」の3代目・石村僐悟さんと結婚して、同社で主に商品企画や販売促進、人材教育に携わる。一方で、福岡のさまざまな組織の委員なども務め、2011年11月には「第28回福岡県女性研修の翼」団長として、20名のメンバーと北欧を訪問した。

 

 

 

 


 

 

 

 

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【あ】 【働く・キャリアアップ】 【文化・芸術/伝統工芸】

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