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伊藤 真奈美(いとうまなみ)さん (2007年3月取材)

【ロールモデル】
ロールモデルとは

NPO法人嘉穂劇場 事務局長

20年後も30年後も芝居小屋を愛してもらえるように…

 民営の劇場として、70年以上の歴史を持つ、飯塚市の嘉穂劇場。国の登録有形文化財にも登録されています。現在、「NPO法人 嘉穂劇場」の事務局長として、劇場の保存と維持を行なうとともに、まちの活性化のために活動を続けているのが伊藤真奈美さんです。
 現在では見事に復元されている嘉穂劇場ですが、平成15年、飯塚市を襲った豪雨のため壊滅的な被害を受けました。再興のための費用のことなどを思うと、一時は廃業まで考えたこともあったという伊藤さんですが、長い間地域のシンボルであり、多くの住民のよりどころであった劇場を残したいとの思いは強く、存続へ向けての活動を奮い立たせました。たくさんの役者やファンの激励に意を強くし、再建のための資金集めなどに奔走する日々が続きます。俳優の津川雅彦さんの呼びかけによる支援イベントが行われるなど、全国にも知られ、小屋を大切に思う多くの人々の支えも広がり、嘉穂劇場は再建されることとなりました。
 約1年かけて復旧工事が行われ、平成16年、運営はNPO法人化されました。NPO法人になることで、公益性も増し、市民の劇場、まちづくりの拠点となるような劇場運営を目指すことになりました。

劇場を中心としたまちづくりに取り組む

 伊藤さんは、嘉穂劇場を中心としたまちづくりに取り組み、より多くの人々に伝統文化にふれてもらいたいと、様々な文化振興事業を企画運営しています。その中でも、伊藤さんが特に力を入れているのが、子どもを対象にした劇場キャンプと第九の公演会です。
 子どもキャンプは、劇場と伝統文化の素晴らしさを子ども達に伝えたいという思いから、7歳から12歳までの子ども達を対象に行われています。劇場での宿泊や商店街を歩いて回るお練りなど、日常ではできないような体験を楽しみます。遠くは大阪から、毎回120人もの子ども達が参加します。
 「元気のいい子ども達の劇場キャンプを実施するには、パワーと根性が必要です。そのため、運営会議は、毎年、キャンプを開催するかどうかの検討からはじまるほど。でも、やはり、子ども達が喜んでくれた時は嬉しく、開催してよかったと思いますね」と伊藤さんは言います。
 「水害の時に心配してくれた人、助けてくれた人の多くは、幼い頃に劇場を訪れた経験のある人や、芝居小屋に触れたことのある方達だったのです。子ども達のキャンプは、そういう伝統文化や芝居小屋を愛する心を育てるための『種まき』にも繋がると思います」と、伊藤さんは言います。

より多くの人々に、劇場での経験を

 子どもたちの劇場キャンプに並ぶ嘉穂劇場の一大イベントとして、クリスマスに恒例の第九の公演会があります。それまでの劇場は、大衆演劇が主な催しものだったため、お客さんは高齢の方達が大半を占めていました。「今までのお客様も大切にし、そして今の劇場に欠けている部分も補わなければならない。より多くの人が、劇場で幅広い文化に触れあえる企画はないだろうか」と考えていた時に、ABC交響楽団のチラシが目に入りました。劇場でクラッシックを聴いてみたいと思ったことをきっかけに、様々な人に働きかけ、第九公演を行なうための準備にとりかかります。そして、平成16年、嘉穂劇場で初めて第九が演奏されました。
 嘉穂劇場の第九公演は、公募で参加者を募ります。地元の小中学生から、市民コーラスに参加している70代の男性まで、幅広い年代の参加者が、一流の指揮者や楽団と一緒に共演するのです。この公演会には、「地域の季節の風物詩になってほしい」という伊藤さんの願いも込められています。
 伊藤さんの取り組みには、劇場の活性化を、飯塚市の地域おこしにもつなげたいという思いがあります。座長大会の時にまちを練り歩くと、商店街は人であふれ、まち全体が賑わいます。しかし、伊藤さんはこれだけに満足しません。「同じものを見せ続けるだけでは飽きてしまいます。新しいものを常に提供し、頭と体を使い積極的に飯塚のPRをしていきたい」と語る伊藤さんは、更に先を考えています。 

これからの夢とメッセージ

 伊藤さんの今後の夢は、まずは芝居小屋を維持していくことだと言います。より多くの人に劇場の存在を知ってもらい、小屋に足を運んでもらうことが伊藤さんの一番の願いです。そして、「新しい試みを恐れずに、おもしろいことをどんどん企画していきたい。飯塚のために、まちと協力し常に何かを発信していきたいです」という伊藤さんの言葉には、バイタリティが溢れ、地域を想い、地元の人々を愛する心が感じられました。
 伊藤さんの信念は、『ピンチはチャンスである』です。「危機の機は機会の機でもあるように、ピンチの中には何%かのチャンスが眠っているのではないでしょうか。これからも前向きにチャレンジを続けていきたい」と話す伊藤さん。どんな困難にも諦めずに前向きに頑張ることの大切さが伝わってきます。
 水害を乗り越え、地元や小屋を愛する多くの人々との深い絆でつながれている嘉穂劇場。今後も、飯塚の宝として多くの人々に受け継がれていくことでしょう。
                                     (2007年3月取材)

コラム

☆近況報告☆

〔近況をお聞きしました!〕
嘉穂劇場は、平成23年2月6日で、開場80周年を迎えました。これからは観光の面でも、もっと多くのお客様に来ていただける様に劇場見学の方も充実させていきたいと思っています。
嘉穂劇場第九は一旦休止しましたが、現在市民の方たちが“飯塚第九”として引き継いでくれています。私どもの嘉穂劇場第九が種となり、市民の中で花ひらいたことを嬉しく思っています。
80周年の記念日は、美術家たちとのコラボで幕があきました。現代アートとのコラボは新鮮で、またひとつ劇場の新しい可能性をみつけました。
                                      (2011年3月)

プロフィール

嘉穂劇場の保存・維持と劇場を中心とした街づくりに積極的に取り組んでいる。
子どもを対象にした劇場キャンプや市民参加による第九講演会など、様々な事業を企画・運営。
毎年恒例の全国座長大会や世界のCMフェスティバルの開催など、新しい試みにも挑戦している。

〈これまでの歩み〉
平成15年7月 
劇場が水害被害(豪雨による冠水)。

平成16年1月 
NPO法人(特定非営利活動法人)へ移行。事務局長に就任。

平成17年8月 
サントリー地域文化賞受賞。

平成18年11月 
嘉穂劇場が、国の登録有形文化財に登録される 。

現在、毎年恒例の全国座長大会、こどもキャンプや第九公演など様々な企画を運営している。まち全体の活性化にも積極的に従事。

 

 

 

 


 

 

 

 

キーワード

【あ】 【国際・まちづくり】

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